第106話 30代・詐欺師の死

私は荒れた。



なぜ。どうして。


やっと、やっと告訴できるという、この時になって。




弁護士のところに、Yの遺族(妻子)から、あちらも弁護士を通して、遺産放棄の通知が来たという。


「心臓発作だそうです」





ある友人は、


「天罰だよ」


と、私を慰めようとした。





天罰?


違う。


死 は。


誰にでも訪れる、冷厳で絶対的なものだ。




もしもその死が、私や、他の誰かの手で、本来より早く訪れさせたものなら別だが。



刺してしまえば良かったと思った。


殺してしまえば、ではない。


「事件」になれば、「動機」が調べられるだろう。


だから。


私が慣れない書類整理をして、父から薄れた記憶を引っ張り出しているよりも、警察が調べてくれれば、あっという間に立証できる。


それが、「私」の「傷害罪」の動機として、であろうとも。




そう、思った事もあったけれど、それでも「まとも」にきちんと手続きを踏んでと思い直してやってきたのに。


何も実を結ばなかった。


なんの結果も生み出さなかった。



刑務所へ放り込む。

できなければ、せめて前科者の烙印を。





けれど 「Y」 は。


ごく「普通」の。


「善良な一般市民」として。


埋葬されてしまったのだ。

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