第107話 30代・この弁護士で・・・

Yの死で、弁護士との縁が切れたわけではなかった。



名義を勝手に使われた件では、複数の債権回収会社からの督促状となっていた。

それらを弁護士のところに送ったが、Yの件と並行してお願いしていたのに、さて、さっぱり何かが進んだという報告はなかった。



この頃は、私はこの弁護士にお願いしたことを後悔していた。


父の知人であり、人権派弁護士として立派な仕事をしている人らしかったけれど、とにかく仕事が遅すぎる。

おそらく、もっと大きな事件を優先して、詐欺事件など後回しだったのだろう。



これは弁護士本人の言葉ではないけれど、ある時、こちらの事務の方に、なんの件だったか、急いで欲しい、早く、と、せっつくようなことを言ったとき、


「もっと深刻な、命がかかっているような人もいるんです」


と言われたことがあった。



軽く見られていたのだろう、詐欺には命がかかっていないと。


本当にそうだろうか?


私が焦っていたのは、父が高齢だったからだ。


父にも、時間はそれほどありはしなかった。




父より若い、詐欺師の方が先に死ぬとはさすがに思いもよらなかったけれど。




経験はなくても、もっと若く、仕事もあまりなく、熱心に取り組んでくれそうな弁護士を探せば良かった。

そんなに簡単に、見つかるか分からないけれど、探すだけ探してみればよかった、と。


後悔した。




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