第80話 30代・捏造

一日中、片付けて夜、鍋いっぱいに野菜や肉など具を入れて事務所の台所の小さなガスコンロにかけ、火が通ったところで事務所の来客用のソファーセットのテーブルにカセットコンロを置いて、そこに移す。

二人きりだから、具を継ぎ足す必要はなく、これで十分。最後にうどんかご飯を入れて、しめ。




父は朝から晩まで、このソファーから動かない。



「高橋が捕まったそうだよ」


「へー」


「Yも、事情聴取で拘置所だそうだ」


「まさかそれ、信じてないよね?」


「信じてないよ・・・」




Yの話には以前から、前田という検事がたびたび登場したらしいが、ここへきて、その人が検事を辞めて弁護士になったから、引き続き任せてくださいと言ってきた。

すべての手違いは高橋の背任で、そちらは警察が調べている、Yも知らなかったとはいえ加担したから、事情聴取されている、と、ご丁寧に公衆電話から、ミジメそうな声で、拘置所は寒くてつらいとかけてきた。




事務所の電話には、今や録音用のテープをつけてあったが、父はたびたびこれのスイッチを入れ忘れるので、金の無心をしているところは途中からしか取れなかった。

そこで私がもう出さないと言っていると伝えて、うろたえているところを録音したわけだ。

そのあとは本当に送金しなかったので、残念ながら金の無心のシーンはガッチリ録音できなかった。



Yの話には、うちの地主まで登場し、なにやらやたらと壮大な陰謀の一員で、そちらの方で罪が暴かれるはずなので、家を失うことはないから、控訴の手続きを取らないで欲しいと言われたそうだ。

もちろんこれはYがYとして話したのではなく、その前田という検事が言ったそうだが、当然前田もYであって、Yの一人三役というわけだった。




ところでお分かりだろうが、高橋も前田もYの捏造した人物なので、Yが使用した名前をそのまま書いている。

Yだけは本名なのでイニシャル表示だが、全く、本音を言えばフルネームで表示してやりたい。

フルネームイニシャルはY・Yである。


書かれたくなきゃ、悪いことをするなと言いたいところだが、全く世の中、理不尽だ。

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