第76話 30代・無残
1日妹に手伝ってもらった以外はほとんど1人で片付けしたが、どうしても1人で持ち上がらないものを、最後に友人を呼んで手伝ってもらった。
妹はこのときのことを友人たちには話していないようなのだが、私はこういったことを全て話してしまう。
家から放り出された何週間か後には、2人の友人が家まで様子を見に来てくれたし、数人がまとまって最寄り駅まで励ましに来てくれたこともあった。
この頃、まるで地獄の底を這いずっているような思いだった。
何年か後に、市役所勤めの友人が、仕事でゴミ屋敷の片付けをしてとても大変だったと言う話をしていたらしいのだが、私にはどこが大変なのかさっぱりわからなかった。
他人のゴミなど、ただの単純作業ではないか。
とんでもないものが出てきたり、汚いものが出てくるかもしれないが、仲間と一緒にやるのだし、こんな惨めな、憎しみと怒りで胸の内が焼けただれるような気持ちで作業をするわけでもなかろう。
家の荷物が終わった後、次は事務所が待っていた。
今度は、事務所を閉める作業を、ほとんど何も分からない私がしなければならなかった。
父は毎日、事務所のソファーで肩を落とし、ひたすら詐欺師からの電話を待っていた。
私がサイフを握ってしまったので、もう金を振り込んではいなかったが、相変わらず、毎日、何時間も話し込んでいた。
もう送金できないと言ったときのYは、
「女子供の口出しすることじゃないじゃないですか」
と慌てたように電話の向こうで言ったけれど、だからと言って警察に行かれても困ると思ったのか、毎日の電話は変わらずよこした。
父の貯金は完全にゼロで、というよりマイナスだった。
整理しているという債務は、実は全く手付かずで残っていたのだから、父の貯金通帳は、何かで入金があれば差し押さえられた。
生命保険さえ解約してすべてYに送金しており、日々の仕事の収入も、入れば送っていたのだった。
後日、地主から立ち退き料が入った。
また差し押さえられても困るので、一時的に私が預かったが、呆れ果てるくらいの少額だった。
土地の広さと借りた年月、土地価格などを考えると、何故そんな額になったのか、理解できないくらいだった。
裁判に負けたことは知っていたが、これほど無残な惨敗だったとは思いもよらなかった。
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