第73話 30代・強制執行

私は部屋の扉を閉め、鍵をかけた。

完全にパニック状態だった。


階下ではどんどん人が入ってくる気配がする。

執行官らしい人が、何やらドア越しに私にあれこれ言っていたが、耳に入らなかった。

しかし、もうどうしようもないのだ。

私が部屋にこもっていても、どんどん他の部屋から片付けられてしまう。


貴重品をしまうから、その間待ってほしいと告げ、震えながら現金と通帳等だけかき集めた。

それから部屋を開けて、自分の衣服など荷物の箱詰めを女性に手伝ってもらった。

他の部屋はもう、大勢の人が勝手に箱に荷物を詰め始めていた。




自室だけ終えると、私は貴重品を持って、家の前のアパートの1階にある父の事務所に入っていった。

父は、どこかに電話しており、執行官らしい人にその電話に出るように告げて手渡したが、その人は、何か少し話すとすぐに行ってしまった。


どうやら、電話の相手は父の弁護士らしかったが、特に何もしてくれなかったようだ。

そもそも、日程の延期をしてくれたんじゃなかったのか。

手続きをちゃんとしてくれなかったのか。

大体こんな有様になってなぜ来ない。


何もわからず私はただ、震えていた。



父の事務所の入ったアパートは、母が私と妹に残してくれた古いアパートだった。

もう、あまりに古くて半分も空いていたので、その空き部屋と父の事務所に荷物を詰めて行ってもらった。


車と、建具は後で、どこかの倉庫に保管されていて、取りに来なければ売却する旨通知があったが、とても取りに行けるような余裕もなかったし、建具をなぜ持っていったのか謎だった。





その日は、事務員さんが浦和のホテルをとってくれた。

ぼんやりしたまま父と2人、事務員さんの車に乗ってホテルに行った。

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