第74話 30代・偽弁護士

戻ってこられても困ると思ったのかもしれないが、その日と翌日1日で家はほとんど、土台のみ残して破壊された。




この頃の記憶はあまりはっきりしないのだが、確か翌日から西川口駅近辺のウィークリーマンションに移った。

強制執行の翌朝、ホテルまで事務員さんがまた迎えに来てくれたが、いつまでもそうしているわけにもいかず、近くに泊まれる場所を確保したほうがいいと言う話になり、電話帳で見つけたのだったと思う。



アパートの空き部屋には、床から天井までぎゅうぎゅうに荷物が詰め込まれ、とにかくこれを片付けなければ、部屋を使うこともできない有様だった。

連中は、扉を開けた途端に、崩れてきそうなくらいに、荷物もゴミも一緒に詰め込んでいった。




1日経って、少し落ち着いた私は父に聞いた。


「弁護士に、延期の手続きをとってもらったって言ってなかった?」


「とってもらったよ。そのはずだった」


「その人、なんで来ないの。事務所の電話番号は?」


父は、携帯電話の番号を告げた。


「・・・おかしいじゃない。

事務所に固定電話がない弁護士なんているの?

大体、その電話番号って確か、Yさんの電話番号じゃなかった?」


父の話では名義を勝手に使われた被害者は複数いて、すべての整理を高橋という弁護士がしており、Yという知人がその手伝いをしているという。

その関係でYからは毎日のように電話があった。


「いつも、Yが連絡とってくれるんだ。

Yのところに電話すると、向こうから電話が来るんだ」


完全に話がおかしい。


事務員さんが、弁護士会の電話番号を調べてくれ、その高橋という弁護士の名前を問い合わせした。

すると、同姓同名の弁護士は1人だけいたが、関東ではなく、北海道だという。

念のため、その弁護士に電話をしてみたが、もちろん全くの別人だった。



父は、居もしない弁護士にあれこれ依頼をし、ずっと金を振り込み続けていたのだった。

相手は言を左右にして、金を巻き上げるだけ巻き上げて、実のところは何の手続きもしていなかったのだ。

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