18

薬が効いて、少し落ち着きを取り戻してきたリリィが、部屋の中を見て歩く。


「おにいちゃん、お風呂入る~」

「ああ、好きにしろ」


まるで小さな子供の様に、リリィはザンザスの前で服を脱ぎ捨て、全裸になった。

その、背中に刻まれた傷痕。

直視したのは初めてだった。

なんて酷い事を…。

多分、鞭の様なもので酷く殴られたのだろう。

火傷の様な痕もある。

無数に背中に走る傷痕は、きっと一生消える事はない。

それを見たザンザスの怒りがどれ程だったか。


「リリィ、俺だって男だ。そんな所で服を脱いではダメだ」

「えー?そうなの?」


…少し常識に欠けている所があるのは、小さい頃に売られ奴隷の様に扱われていたせいだろう。


哀しい過去。

戻せない時間。

だが、未来なら変えられる。

リリィは俺が、命をかけて守り抜く。

それがザンザスの、リリィへの償いという名の愛だった。


「おにいちゃーん、一緒に入ろ?」


バスルームからリリィが叫んだ。

ぶーっ!!

ブランデーを勢いよく吹き出した。


「リリィ、兄妹でも男と女だ。一緒に風呂に入る訳には…」


ザンザスが絶句したのはそこに、一糸纏わぬ姿で微笑むリリィを見てしまったからだった。


「お、にい、ちゃ、ん?」

「リリィ、いい加減にしないと俺も怒るぞ?」


急にザンザスが怒り出した理由が判らず、リリィはしゅん、としてしまった。


「ごめんなさい…」


瞳に涙を浮かべたままバスルームに駆け込んで行った。


あぁ…。

また泣かせちまった。

リリィには理解出来ないんだ。

男と女の事が。


くそっ!!

一体何をされて来たんだ?

リリィの身体が男を知っている事は気付いていた。

俺がリリィを抱けば、リリィの心の傷は消せるのか?

…だが、それは禁忌だろう?


誰か、俺に教えてくれ。

俺は一体どうすればいいんだ?

リリィを…。

リリィを抱いてもいいのか?

それしかリリィを救えないのなら、俺は喜んで禁忌を破るさ。


ふっ。

ヴァリアーのボスであるこの俺が、何てザマだ。

考えてみたら、女を好きになった事なんて、なかったな…。

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