12

「それじゃあ、地下三階に案内します」


ツナがそう言って、エレベーターに乗る様に促した。


「おにいちゃん……」

「あぁ、そうか。沢田、リリィは閉所恐怖症だ。階段はないのか?」


閉所恐怖症…?


「階段は、作ってないんです」

「そうか。リリィ、どうする?」

「おにいちゃんが、いてくれれば…」



ザンザスの、胸元までしかない、小さなリリィ。

しかも、かなり痩せている。

どんな生い立ちを背負っているのだろうか?

半年前に妹の存在を知ったと、ザンザスは言っていた。

その、意味は?

時折見せる、ザンザスの悲痛な表情が、何かを物語っていた。




ポーン!



エレベーターのドアが開いた。

リリィの表情が強張る。


「俺が付いている。大丈夫だ」

「ん…うん」


リリィが、ザンザスの胸に顔を埋めた。

その、仕草が、何故かツナの脳裏から離れなかった。

何故?

こんなにも、この娘は人を惹き付けるのだろう?

ただ、美しいだけじゃない。

何か、不思議な魅力を持ち合わせている。

それが何なのかを知るには、ツナはまだ若く、幼かった。

…ほんの数分間のエレベーターの中で、リリィはずっと、ザンザスの胸に顔を埋めたままでいた。

その、小さな身体が、小刻みに震えている。

ザンザスの、大きな手がリリィの身体を、包み込む様に抱いていた。

まるで…。

全ての敵から、リリィを守る様に。




ポーン!



「着きました」


ツナが、辛うじて、それだけを言った。


「リリィ、歩けるか?」

「…お、にい、ちゃ、ん」

「判った」


そう言うと、当たり前の様に、リリィの身体を抱き上げた。


何故だろう?

見ていたツナが、一瞬ドキリ、とした。

この兄妹は、どんな絆で結ばれているのだろうか?

そして、ザンザスの妹というこの少女は、どんな生き方をして来たのだろう?

考えれば、考える程、ツナはリリィに惹かれていった…。

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