第3章 初めてのサンタクロース会議 2

 夜光バスはいくつもの町の駅で停車してサウーロのバス停に到着した。

 不思議とよく眠れた。バスの中で動きながら座って寝ると大抵の人は少しの疲労がでるものだが、いたって健全だった。爆睡していたので誰が乗り降りしたのか把握できなかったが、そんなことはどうでもいいことだった。

 バスを降りてスーツケースを取り出す時に、他の人のスーツケースにアムストクーのサンタブーツがスーツケースにぶら下がっているのが見えた。

 緑の長髪の少女二人の物のようだ。

「それってアムストクーのサンタブーツだよね?君もノイルッシュに通うの?俺も通うんだ」

 トウはナンパするかのように二人に話し掛けた。

「……君か、おじさんのいびきがバスの中で響くなかずっと爆睡していた。ええと名前は?」

 トウはきょとんした顔をした。

「ネイルスタースミス・トウ」

「もしかしてウツクシ村の大きな城に住んでいる人?」

 背の高い方の姉と思われる方が言った。

 住んでいる場所までわかってしまうとは。前にもネイルスタースミスと名乗るだけでシャクシャクの孫だとわかられるし、個人情報は守られたいものだ。

「そうだよ、君達の名前は?」

「イルミーデ・セレナード、こっちは妹のノネイム」

 ノネイムは小さな声で「よろしく」と言ってペコリとお辞儀をした。いきなり話し掛けたからか警戒されているようだった。

「今年は私がノイルッシュに入学するんだけど、ノネイムも再来年に入学したいらしくて、見学のために着いてきたの」

「そっか、それじゃあこれからノイルッシュに行くのかい?」

「そう、トウ君もくる?」

「トウでいいよ。俺は今から自分の住む寮に行くから。そういえば君達はどこから来たの?」

「ツヘイルだよ!」

 ノネイムは言った。

「シヘイルっていうとウツクシ村の隣じゃないか」

「そうだよ。まぁ君は爆睡していたからわからないのも無理はないけど」

 セレナードは少しばかり小馬鹿にしているようだった。

「ツヘイルはウツクシ村よりも田舎だから、大都市のサウーロでたくさん買い物するんだ。ほしい服をたくさん買って、おいしいものをたくさん食べるんだ」

「まったく、ノネイムは子どもだな」

「お姉ちゃんがたまたま私より早く生まれただけ。同い年だったら私の方が優秀だもん」

「そういうことにしておくわ。それじゃあトウ、またノイルッシュで!!」

 セレナードとノネイムはスーツケースのタイヤをコロコロと音を立てながら転がしてどこかへ去ってしまった。

 トウは遠ざかる二人を見た後、寮に行く前にサウーロの繁華街を回ることにした。

 サウーロはレインランドの三割の人間が集まっている。レインランドが雨国と外国人に呼ばれるのを逆手に、雨に纏わる建設物やイベントが多い。

 多くの演芸者は水に関係したことを披露する。それは外国人のほとんどはサウーロに集まるため、他国に対して個性を見せるためでもある。また、それらの活動はレインランドが他国に負けない強みでもある。

 街は人工的に造り出された水流がある。夜になるとライトが照らされて通路がイルミネーションで輝く。

 トウはこの場所に何回か来てはいるが、いざこちらの世界に住むようになると考えると少しだけ興奮する。

 トウは人通りの多い場所をただひたすら歩いていた。ただ歩いているだけで色んな人から声を掛けられた。

「味噌ラーメンはいかが?」「いまならオニオンハンバーガーがセットでお得だよ!」「お兄さん!散髪していかない?」

 トウは田舎住まいが長くて、こういった店側の勧誘には慣れていなかった。

 早く離れることにしよう。そう思い始める頃には不思議と足が寮に向かっていた。



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