第3章 初めてのサンタクロース会議

第3章 初めてのサンタクロース会議 1

 城から離れる日がくるまで、トウは残り少ない時間を家族と一緒にいるため外出を控えるようにした。

 いよいよ城から離れる日が来てしまった。サウーロには夜光バスで行くためこの日はのんびりと過ごしていた。

 夕食後、トウはシャクシャクの部屋でシャクシャクにホクシでの出来事を話した。

「ユールラッズ……ワシも詳しくはわからん。ある外国ではユールラッズというサンタクロースが存在する。ワシが思うにこの国での扱うユールラッズという語源と雨外国では全く別物のようじゃの」

「『天使の教会』のレースダークさんはサンタクロースには敵わないって言ってた」

「それは事実じゃろうな」

「なんで?」

「一つ例をあげるならレインランドマウンテンじゃ。あそこに行くことができる強者はサンタクロースだけじゃ」

「それってやっぱりライト法が使えるから?」

 シャクシャクは頷いた後にトウのことを右手の人差し指で差した。人差し指の先端から小さな光が出てきて薄暗かった部屋を本の少しだけ明かりが灯った。

「……すごいや、俺には出来るのかわからないけど」

「ホッホッホッホッ!!大丈夫じゃ。ワシの孫じゃろ。トウならすぐにマスターできる」

 トウは下を向いて不安な気持ちだった。

「なぁトウよ、ノイルッシュに入学する前に一つ教えてあげよう。トウが悩んでいることは、実は誰もが悩んでいることでもあるのじゃ。ワシがサンタクロースとして働いて稼いで生活しているからじゃろ?本来サンタクロースはお金のためにやるべきことじゃないのはずじゃろ?サンタクロースはあくまで報酬のないボランティアじゃ。気付いたらボランティア精神というものが消えてしまって利益を得たくなってしまっているようじゃな。ワシの真似なんかするのはリスクしかない。ワシは本の一部の特別に過ぎない。成功していない者は五万といる」

 やっぱりお爺ちゃんにはわかっていた。サンタクロースを目指すとなると誰しもが必ず聞く名「ネイルスタースミス・シャクシャク」。俺がたまたまお爺ちゃんの孫だっただけだ。

 ひょっとするとバレンやクリストキントも思っていたのかもしれない。表情や口では出てないだけでそうなのだと思う。

「成功する者はわずかじゃが皆それを狙ってあの学校に入学するんじゃ。安心せい。ノイルッシュは就職支援が充実しておる。新卒でなれなかったとしてもチャンスはいくらでもある」

 やはりお爺ちゃんは心強い。さすがサンタクロース協会理事会長、そしてソリレースを何度も優勝した実績の持ち主だ。

「そうだ、お爺ちゃんのブーツを貰ってもいいかな?」

「ワシは構わんが、靴のサイズが合わないと思うぞ、ほらっ!」

 シャクシャクはかなりの大柄の男であるため靴のサイズは大きい。サイズのことをあまり考えていなかった。

 シャクシャクは大きな箱からブーツを取り出した。

「それにワシの使っていたブーツはもうこのとおり壊れてしまった。ソリレースには時間もあるから、夏休みにでもまた行けばいい。アムストクーはワシもよく仲良くした友人の一人じゃ」

「アムストクーさんのサンタブーツってそんなに凄いの!?ソリレースでは優勝者が何度も履いているらしいし」

「当時は運送業がまだ盛んではなかった。サンタブーツが買える店が限られていた。噂が流れ出したのはワシが連続で優勝するようになってからじゃな」

「そうだったのか。でもやっぱり他のブーツとはなにか違う性能だったりするんじゃないの?」

「そんなことはないな。じゃが最近の者はアムストクーのロゴの入ったブーツを履くことでちょいとやる気が違うらしいな」

「そうなんだ。それなら俺もアムストクーのブーツほしいな。あのとき買っておけばよかったよ」

「ホッホッホッホッ!!まぁ過ぎたことは仕方ない。ワシは嬉しいことが二つあるわい。一つはワシのブーツを使いたいと言ってくれたこと。もう一つはトウが新品を購入しないで、ワシのブーツで代用しようとしたこと。ワシは心配じゃったことがあるのじゃ。この城というなに一つ不自由のない生活の中で贅沢を覚えて無駄遣いばかりする人間になるのではないかとね」

「……お爺ちゃんのブーツを使いたいと思ったのは本当に何となくだよ。それじゃあ、おやすみなさい」

 トウはすっきりした表情で部屋から出ていった。

 シャクシャクの溜め息が部屋全体に聞こえるほど大きく出た後、シャクシャクは机に座りながら右手人差し指でライト法の光を出した。

 時計回りになぞりながら四角を描くと、宙に浮いたスクリーンが写し出された。

 スクリーンは仲間達の使うパソコンやスマートフォンに繋がった。

「ワシじゃ……急で申し訳ないが、明日サウーロに集まってほしいのじゃ」

 一方のトウはエナンとアナンにも別れを告げ、城から出るとトナカイの小屋に向かった。トウはコンやトナカイ達にも別れを告げようとした。

「寂しくなるな」

「夏休みには戻ってくるさ。そんな顔をするなよコン」

 ノイルッシュは夏休みはとても長く、冬休みは正月が終わってからである。

 トウは上夏休みと冬休みには少しだけ戻ろうと考えていた。

「おーい、行くぞ!早くしないとバスの時間に間に合わなくなるぞ!」

 トナカイのコメットが引くソリに乗ったアートが叫んだ。

 コンと二人で決めた拳と拳をぶつけ合う握手を交わすと、トウはアートの所へ向かった。

「しっかり捕まったか?それじゃあ出発するぞ」

 アートがコメットと繋がっている紐を動かすと、ソリはウツクシ村の繁華街にあるバス停まで移動した。

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