第2章 自分の進路で悩む 3
ベファーナと別れてからのことだった。二人はデパートの外に出て各自の乗り物でホームセンターの「オールホーム」に向かっていた。
デパートの行きまでとは違い、ヴィクセンは台車を引いて走っていた。荷物は全てバレンの物である。
「これ以上はヴィクセンがかわいそうだ。もう荷物は増やせないぞ」
「安心しろ。オールホームで荷物と台車を預けるから帰りは軽くなる」
オールホームの近くのビルの道路を通っていた時のこと、歩道には保育園の園児達が先生と手を繋いで歩いていた。ビルの屋上には化粧水の入った容器の写真の広告掲示板が装着してある。
ビルの上はたくさんの鳥達でいっぱいだった。信号が赤になった時、トウはその不思議な光景を見上げていた。
「なぁあの鳥達なにしてるんだ?」
バレンも異変に気付いた。鳥達は看板に何度もつついたり体当たりしていた。
「ヤバイんじゃないか!?」
看板は今にも倒壊して落下する勢いだった。片側の固定してあるネジが壊れて大きな鉄の看板が風で靡いていた。
鳥達は止めずに攻撃を続けていると、もう片側のネジが外れて落下してしまった。しかし真下にいる子どもと先生は看板に気付いていなかった。
「危なーい!!」
近くにいたクリストキントは子どもを守ろうと落下地点に近付いた。
クリストキントは一番小さな女の子を強く抱き締めた。看板に気付いた先生達も他の子ども達を抱き締めた。
トウは右手から雪の技を放った。雪の技は鉄砲のように素早くビルまで伸びていき、看板が落下する前にビルにくっつけるように氷らせてしまった。
「大丈夫か!?さあ早くここから離れるんだ!!」
バレンは近付きながら声を荒立てた。
「もしかしてブラックサンタクロースの仕業なんじゃ?」
「バカ、そんなわけないだろう。あれはどうみても自然現象だ!それにクリスマスシーズン以外に悪いことする奴ならブラックサンタクロースというよりただの悪党だよ」
トウはバレンの言うことも一理あったが、鳥達がなぜ看板に攻撃してたのか知りたくて鳥達に直接話を聞くことにした。
野次馬が集まり警察に事情を聞かれた。氷は強度でないため、しばらく溶けると看板を消防士の人が落下する前に回収して地面に置かれた。
泣き出す子どももいたが、しばらく落ち着いた後、子ども達と先生はお礼を言ってその場から離れていった。トウは警察に原因を話すためその場に残った。
「原因がわかったよ。鳥が餌と間違えて何回も攻撃していたんだよ。ほら看板の所々がデコボコしている。何度も何度も攻撃しているうちに少しずつネジが緩んできたんだろうね」
「これが何の食べ物だというんだよ。ただの化粧水の入った容器じゃん」
バレンは言った。
「化粧水の入った容器とそっくりな食べ物が近くの森に生えているそうだよ。なんでもこの辺の鳥達はそれを好んで食べるとか」
数名の警察官がメモ帳に記載し始めた。そして全員がある程度書いていると、ピタリとメモするのを止めた。全員が同じことで疑問に思った。
「あなた動物と話せるの?」
そう問い掛けたのはクリストキントだった。トウはコクりと頷いた。
「なんで動物と話せるんだ?」
警察官の一人が言った。
「これは……生まれつきの才能です」
「遺伝が関係あるの?」
クリストキントは優しい口調で言った。
「いや、遺伝じゃないよ。俺のお爺ちゃんは動物と話せるけど、お父さんは動物と話せないんだ」
三人は名前と連絡先を伝えた。警察官は「ネイルスタースミス」という名字に聞き覚えのあり、話題はシャクシャクの話になった。警察の中でもシャクシャクの名は知られていた。階級はわからないが、警察の上司と思える人がやって来て「無駄話をするな」と部下に言うと、途端に事情聴取は終わった。
トウとバレンはとっさに乗り物を止めた歩行者通路の所に向かった。
「さっきのってユールラッズの雪の技でしょう?」
後ろを振り返るとクリストキントが着いてきていた。
「さすがシャクシャクの孫ね。やはり持つべきものは持っているのね」
「才能って言いたいのか?俺さ、その言葉あまり好きじゃないんだよね。だって何を頑張っても才能の一言で済まされるんだぜ。そりゃあたしかに備わっているものは多いかもしれないけど、俺だって頑張っているんだぞ!」
トウは不満を吐露した。
「ところで俺達になんかようか?」
「あなたには用がないわよ。でもトウと一緒に着いていきたいのなら別に構わないわよ」
バレンは少しいじけて目を細めて口を尖らせた。
「俺は行くとは一言も言ってないぞ。そう言えばなんでユールラッズの技のことを知っているんだ?」
「私の家がこの近くにある『天使の教会』という教会でね、ユールラッズの技についての本があるの」
「あー、あの屋根に大きな十字架の飾りがある所か」
バレンは言った。
「そう。なかでも『雪の技』について詳しく書かれた資料があるんだ。雪の技を見るのはこれが初めて。今まで風の技や雷の技は見たことがあった。私は使えないけどね」
「なるほど、ぜひ行ってみたいな」
トウは雪の技について詳しく知りたかったこともあり、クリストキントの誘いに乗ることにした。
「おい、言っておくが買い物が先だぞ!」
「わかってるよ。じゃあ一時間後に教会に行く」
「えぇと、クリストキントだっけ?俺も行くからな!」
バレンはトウよりも盛大な声量で張り上げて言った。
「えぇ、ご自由に。それじゃあ待っているから。教会の資料室はいつでも開放しているから」
一先ず乗り物に乗ってクリストキントと別れ、オールホームの駐車場に乗り物を止めて買い物をすることにした。
「あの女なんか気にくわないな」
買い物中にバレンが吐露した。
「悪い人じゃないじゃないか。これから同じ学校の生徒になるんだ。仲良くしようぜ」
「……正直トウが羨ましいよ」
トウは「えっ?」と驚いて声を出した。
バレンはトウからしてみればユールラッズの技も使えないし、動物と話すこともできるない。小さい頃から何度もあった嫉妬心が溢れて出てしまった。
「……俺はバレンが羨ましいよ。自分の進路をきちんと考えているし。それにバレンは頭もいいし運動もできる。高校を卒業するまでバレンに勝ったことがないよ」
バレンはニヤリとした。
「だよな。たしかに俺は今までお前に学校のテストの成績で負けたことがない。たまたま運良く手にした才能だけじゃ、この先食っていけないぞ!」
バレンは態度を急変させて高笑いした。トウはとっさに言った一言が響いてくれて安心した。
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