第1章 サンタクロースになりたい理由 3

「はぁ……はぁ……」

 しばらく近場にある森を走っていると、トウの息が切れてしまった。

 コンはトウに気を使ってゆっくりと走ったつもりだったが、四本足で走る狐の普通の走りというのは、人間には追い付かないスピードであった。

「ちょっと休憩しないか?」

「おいおいそんなん体力でサンタクロースになれるのか?」

「うるさい!いいから休むぞ」

「はいはい……」

 二人は太い根っこを椅子がわりにして座って休むことにした。するとコンはあることを疑問に思ってトウに聞いた。

「なぁトウ、聞いてもいいか?」

「なんだよ急に……」

「トウって何でサンタクロースになりたいんだ?」

「お爺ちゃんの影響だよ」

 トウは即答だった。

「ちなみにコンの夢は?」

「おいらは……レインランドで一番強い獣になることかな」

「それはどうして?」

「レインランドの動物の王であるルドルフさんに憧れているんだ」

「そうなんだ」

 二人はある程度話した後、トウの「そろそろ行くか」の一言で再び移動し始めた。

 数分後、でこぼこ道を歩いていると、紫色のリンゴの実った木を見つけた。

 トウは目を大きく開けて驚き、リンゴを一個だけ採ってシャツで汚れをとって口を大きく開いてかぶりついて食べた。

「どうだ旨いだろ?」

「リンゴというよりはブドウだね」

 トウはムシャムシャと音を立てながら言った。

 すると近くの草むらからガサガサと音を立てて黒牛が四頭ほどやって来た。黒牛はリンゴの木の近くにいるトウとコンを囲んだ。

「なんだよお前達、おいら達に何か用か?」

「この木は俺達が先に見つけたんだ。お前達には一個もあげない」

「すっ、少しくらいいいじゃないか!!」

 トウが黒牛に言うと、四頭の黒足は驚いた顔をしていた。

「お前……俺達の言葉がわかるのか?」

「あっ、あぁ……昔からなぜか動物の言っていることがわかるんだ」

「そうか、ならば話が早い。先程言ったとおりそのリンゴは俺達がいただく」

 四頭の黒牛はトウとコンを鋭い目で睨んだ。二人が透きをついた瞬間に攻撃するつもりだった。

 トウの右手が本の少しばかりピクリと動いた。それを見た黒牛は攻撃するならいまだと思い、一斉に襲いかかった。

 四頭の黒牛が尖った角でずつきをすると硬い氷にぶつかった。

「なんだ!?」

 四頭の黒牛は慌てて突き刺さった角を氷から外した。黒牛が見たのは、リンゴの木とトウとコンの周りにできた氷の壁であった。

 トウは両手を前に構えて「はぁ……はぁ……」と少し疲れていた。

「……今のはお前がやったのか?」

「そうだ。俺は雪の技が使える」

「……そのりんごはお前達にくれてやる」

 リーダー格である黒牛が首をひねって退散するように他の黒牛に伝えて走り出した。他の黒牛はリーダー格の黒牛に着いていき退散した。

「いや、俺達は少しだけ貰ってくだけだから……」とそう言おうとする前に牛達はどこかへ去ってしまった。

 トウとコンは怪我もなく無事に紫色のリンゴを採ることに成功した。二人は来た道を戻っていた。

「相変わらずその技はスゴいな。まさに敵なしだな」

「まだまだお爺ちゃんの雪の技には劣るけどな」

「強くなるには色んな敵に会わないとな。例えば、炎の技や水の技が使える者とかな」

「あぁ、でもどこに住んでいるのかなんてわからないよ。少なくとも、ユールラッズの技は遺伝が関係しているから、うちみたいに一緒に暮らしている家族がほとんどじゃないかな?」

 遺伝という言葉がコンにとってあることを思い出すキーワードだった。コンはその場で立ち止まって思い摘めてしまった。

「おいらって何者なのかな?」

「その話か……いいよ聞いてあげる」

 耳にタコが出来るほどコンのある話を聞いていたトウは、今回は珍しく文句を一つも言わず聞こうとしていた。

「……おいらって普通の狐とは違うじゃん。喋れるし、大きくもならないし。それに歳もいくつなのかわからないし、いつから城に住んでいるのかもわからない」

「そんなことないよ。世界にはコンみたいに不思議な生き物はたくさんいるよ」

「おいらが一番に気にしているのは、いくら努力しても強くなれないこと、おいら……こんな感じだから夢が叶うか不安なんだ。トウが羨ましいよ。なにせサンタクロース協会理事長で長老サンタで名が知れているシャクシャクの孫だもん」

 トウは次第に感情的になっていた。

「そんなことないさ。俺はいつも震えている。お爺ちゃんの孫としてきちんとしていかないといけないのに………でダメだよ。俺もミイのように賢くなりたい」

「トウはおいらのことをバカにして笑ったりする?」

「なんだよそれ?誰が笑うもんか!」

「そうか、それを聞いて安心したよ。おいらもトウがダメでも笑ったりないさ。トウはトウだもんな。つまりおいらはおいらだ」

「おいおい、自分で言って自分で納得するんじゃないよ」

「ははは、そうだな」

 森を抜けた二人は、寄り道して崖下に広がる景色を見ていた。

「なぁトウ!」

「なんだよ?」

「この先お互いどんな生き方になったとしても、相手の人生を笑ったりしないこと、約束できるか?」

「当然だ!!」

 一つ吹っ切れた二人はすっきりした表情を浮かべながら城に帰るのであった。


 






 


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