第1章 サンタクロースになりたい理由 2

 シャクシャクの城に住んでいるネイルスタースミス・トウという少年はある準備に取り掛かっていた。

「よぉ、やっているか?」

 突然トウの部屋にある小さな狐がトントンとドアをノックしてやって来た。狐の名前は「コン」。

「なんだコンか……どうしたんだよ?」

「いやぁ、きちんとやっているかなって思って見に来たのよ」

 トウは大学入学の準備に取り掛かっていた。

「あぁ、だいぶ荷物はまとまったよ」

 トウは日用品の入った荷物を大きなキャリーバッグに入れていた。

「来週から寂しくなるな。トウが高校生の時は城から通学してたのに」

「ノイルッシュはここからじゃ通えないよ。都会にあるからな。これから一人暮らしするんだ」

 トウはコンにひらひらと一枚の紙をコンに見せた。それはトウが一人暮らしするために借りた寮の契約書である。

 コンはその紙を受け取って大まかに書かれている内容を読んだ。

「……なるほどね。あっ、そうそう、もうすぐお爺ちゃんが城に戻ってくるそうだぜ」

「えっ、そうなの!?」

「さっきお父さんとお爺ちゃんが携帯で話しているの見たんだ」

「そうだったのか」

 トウとコンはシャクシャクを迎えに城の外に向かった。

 遠くの空から八匹のトナカイが引くソリがやって来た。ソリにはシャクシャクが乗っている。

 ソリは城の近くにあるトナカイの小屋の前に着陸した。

「よっこらしょっと!」

 シャクシャクがソリの後ろに置いてある大きな白い袋を肩に背負ってソリから出た。

「お爺ちゃんおかえり、早かったね」

 トウはトナカイの小屋に近付きながら言った。

「サンタクロース会議が早めに終わったのじゃ。そうじゃ、トウにお土産があるぞ」

「お土産?」

 シャクシャクは袋の中から大きな参考書を取り出してトウに渡した。

「公認サンタクロース試験の合格率は低い。ノイルッシュに通う前からしっかりと予習しとくのじゃな」

「……ありがとうお爺ちゃん」

「ホッホッホッホッ!!」

 シャクシャクは高笑いした。

「おいらにはないの?」

「コンにお土産はないが、ちょいとお願いしたいことがあるのじゃが聞いてくれるか?」

「なに?」

「前にワシと二人で森の中で見つけた不思議な実じゃよ。あれをトウにノイルッシュに行く前に食べてもらいたくてな。採ってきてもらえるかな?」

「あー、あれね。おいしかったよね、あの果実」

「あの果実って何だよコン?」

「紫色のリンゴのだよ」

「紫色?」

「うん、リンゴなんだけど食べるとブドウの味がするんだ」

「へぇー、それはぜひ味わってみたいな」

「では行ってきてくれ、頼むぞ」

 コンはコクリと頷いた。

「待ってよ!それなら俺も一緒に行くよ。二人で行ってお爺ちゃんに紫色のリンゴを持って帰るよ」

「そうか、じゃあ頼んだぞ」

「じゃあ着いてきて」

 コンは目的地まで先頭を走ってトウのことを誘導した。

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