雨国のサンタクロース 不老不死編

氷山あたる

第1章 サンタクロースになりたい理由

第1章 サンタクロースになりたい理由 1

 「私はここで死ぬ。だが再び生まれ変わる。私は奇跡を起こすのだ!!」

 イエス・キリストは十字架にかけられた時に最後にこの言葉を口にした。しかし、この言葉を信じる者があまりいなかったため、受け継がれることはなかった。

 時は過ぎて二千年後、キリストの生誕を祝う日であるクリスマスにはサンタクロースが働くのが当たり前となっていた。

「これよりサンタクロース会議を始める!!」

 大きな四角いテーブルには数名のサンタクロースが集まった。皆それぞれどこかの国のサンタクロースの服を着ている。

 司会を務めるのはサンタクロース協会理事会長を勤めるネイルスタースミス・シャクシャクである。

 シャクシャクは赤と白の服と帽子を身に付け、もじゃもじゃとした白髭、ぷっくらと膨らんだお腹をしている年老いた男である。

「今日の議題はノイルッシュについてだが、その前にキリストについて少しだけ話そうではないか」

 それはなぜかと問う者はいなかった。サンタクロースを仕事とする者にはイエス・キリストについて知り尽くしているのが当たり前であり、集いの場でキリストという存在について確認し合うのが当然だと考えているからである。

 その場にいる者は目を閉じて耳を傾けだした。シャクシャクも目を閉じながら話し出した。

「今から二千年前のこと、イエス・キリストはこれまで多くの人々に教えを伝える活動を行った。そして、全ての罪のために自らを犠牲にして亡くなった。そして亡くなってから三日後、キリストは復活を遂げることができた。人々はキリストから伝えられた教えを現在まで絶やすことなく次の世代に引き継いでいった。我々サンタクロースはキリストの偉大さを忘れないために、キリストの生誕とされているクリスマスの日に活動することをここに誓おう」

 シャクシャクの話が終わると、全員が目を開けだした。目を閉じて聞くことによって、その場にいる者が同士であることを認めたかのように心が通いあっていた。

 次にレインランドのサンタ学校「ノイルッシュ」について議題が変わる。

「次にノイルッシュについてだが……ノエル、頼む!」

 ノイルッシュ校長のノエルが話し出す。

 ノエルはシャクシャクと服装は同じだが、違って毛が薄く、お腹もぷっくらとは膨らんでいない。

「わかりました。ではまずは何から話しましょうかね……」

 今年度の予算、研修、行事、生徒の情報など、職員会議で話されるような内容がサンタクロース会議で話された。四月の頭で話されるサンタクロース会議では、毎年ノイルッシュの話が出てくる。

 椅子に座っているほとんどのサンタクロースにとってはどうでもいいことであるため、うたた寝をするサンタクロースもいた。

 会議が終わると、皆それぞれ解散して会議室から抜けていった。

「シャクシャク!」

 ノエルは部屋に出るシャクシャクを呼び止めた。

「今年の新入生の名簿欄を見たんだが、その中に『ネイルスタースミス・トウ』という子が入学ようだが」

「ホッホッホッホッ!!ワシの孫じゃよ」

「やはりそうか。ならばさぞかしお前に似て賢いのだろうな」

「ホッホッホッホッ!!楽しみにしておるがいい」

「おっとそうだった。このあと別の用事があったんだ。それじゃあシャクシャク!失礼するよ」

 ノエルはスマホのスケジュール表を確認して会議室から出ていった。シャクシャクも帰宅するため会議室から出た。

 サンタクロースがトナカイが引くソリでやって来るというのは、クリスマスシーズンのことだ。先に出ていったサンタクロース達は駐車場に停めていた自家用車で帰っていった。しかし、シャクシャクだけは違っていた。オフシーズンにも関わらず、トナカイが引くソリでやって来ていた。シャクシャクの周りのサンタクロースからしてみたら少々変わり者だった。

「今日もソリで来たのかい?」

 小太りの女性のサンタが言った。

「体力は使うがガソリン代が掛からない。それに、こっちの方が速くて快適なのじゃ」

 シャクシャクはソリに乗ると魔法のような技を使ってトナカイとソリが飛べるようにした。

「行くぞ、飛行!!」

 シャクシャクを乗せたソリは空高く飛んで行ってしまった。

 シャクシャクはレインランドの首都であるサウーロ市からシャクシャクの城のあるウツクシ村に向かった。

 シャクシャクの城とは名ばかりで、シャクシャクは王族ではない。ただ村人から大きすぎるから「シャクシャクの城」と呼ばれるようになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る