0時の鐘

走って居酒屋に駆け込んで、また全力で帰れば12時前に帰れるだろうか?


…無理かもしれない。


居酒屋と家との距離を考え、一瞬そんなことが頭をよぎった。でも、走るしかない。

人のいない夜道を、全力で駆け抜けて、居酒屋にたどり着いた時には息も絶え絶えだった。


「あっ、あのっ・・・」

「もう店閉めるよ?」

「あのっ、今日ここを利用したんですが、鍵の落し物ありませんでしたか・・・?」

「鍵ぃ?」


店長らしい貫禄のあるおじちゃんが、呆れた声で聞き返してきた。


「あ~、あったけど、なんか変なクマのストラップついてるやつ?」


変なクマのストラップとは失礼だが、まさにそれだ。


「そうです!」


おじちゃんはゴソゴソとレジをまさぐると、「あぁ、あった」と呟いて鍵を出してくれた。

「ありがとうございます!」

「早く帰んな、あと6分だよ」


…あと6分。

普通に歩けば15分かかる道だ。

不可能かもしれない。でも帰るしかない。


「おじさんは…?!」

「俺ぁ、今日はここに泊まりだ」


なるほど、そりゃあそうか。12時まで営業しているのだから、帰れるわけもない。

ひなのはもう一度お礼を言うと、死に物狂いで走った。


居酒屋の小窓を、夜風がガタガタと揺らす。


「…今日は、やな風が吹いてやがる」


ひなのを見送ったおじちゃんは、そう呟いて小窓を閉めたー…。



どれだけ一生懸命走ったか。

しかしひなのの努力も虚しく、途中でゴーンゴーンと零時の鐘が鳴り響いた。


サァーっと、血の気が引いていく。


やだやだやだやだ!!

大丈夫だよね?!2、3分くらい、過ぎても大丈夫だよね?!


人生、こんなに焦って必死だったことがあるだろうか…?


… …


この街には、昔からの恐ろしい決まりが二つ。


一つ、禁断の扉を開けるべからず。


中には悪が潜んでいる、鬼がいる、悪魔がいる、入れば死ぬー・・・

色々な説があるがいい話じゃない。



二つ、夜中零時を過ぎて外に出るべからず。



零時を回った時ー・・・





街には人斬りが現れるー・・・。

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