第5話 ネイリ―の決断
公爵邸へ着いたネイリ―は従者の手も取らず、早足で自室へと向かう。
寧々にとっては初めて訪れる場所であったが、ネイリ―の体が覚えており特に迷うことなく目的の場所へとたどり着くことが出来た。
ネイリ―の自室に入ってまずしたことは容姿の確認である。
ドレッサーに備えつけられた鏡を覗き込み、そこに映る自身の姿に驚き目を見開く。
現実世界では黒髪のショートカットだった髪は美しいホワイトスノーの髪色に、二重だった瞳はそのままだが、きりっとした猫目になっており何よりも瞳の色が先ほど馬車の中で顔を合わせた父親と同じコバルトブルーになっていた。
(うん、ファンシー)
流石というか、ゲームの世界なだけあって素晴らしい色である。
それに加え、悪訳令嬢の名に恥じない美貌もきちんと兼ね揃えられているらしい。
鏡の中に移るネイリ―は確かに美しかった。といっても、いささか気が強そうで高圧的な・・・・・・人々から遠巻きにされる近寄りがたい美人ではあるが。
鏡に映る自身を物珍しそうに眺めていたネイリ―はハッとしたようにドレスを脱ぎ捨てていく。
腰に巻かれたコルセットを目にし、思わず手を止めた。
(うわー、凄い締め付け。どうりでお腹が苦しいはずよ。こんなものでクビレを作るぐらいなら運動した方がいいのに。)
コルセットを外そうと悪戦苦闘していると、控えめなノック音が室内に響く。
「お嬢様、お入りになってもよろしいでしょうか?」
聞きなれた声に、ネイリーの記憶を探る。
「ハモナ?」
かけた声と共に、部屋に入ってきたのはネイリーの側仕えの侍女であるハモナだ。
その表情はどこか不安げで物言いたげな視線をネイリーに向けていた。
「お嬢様、コルセットでしたら私がお外し致します‼︎」
「えっ、あぁ、ありがとう」
慌てて駆け寄るハモナにお礼を言い、身を任せる。
「あの、お嬢様。本当にコルセットをお外しになってもよろしいのですか?いつもは、」
「ええ、かまわないわ」
ハモナの言葉を遮るかのように言葉を被せる。
「・・・・・・かしこまりました。」
何かを悟ったかのように、淡々とコルセットの紐を外していくハモナの様子を伺う。
ハモナの言わんとしていることは嫌というほど理解出来た。
いつものネイリーなら就寝前だからといってコルセットを外すことはなく、むしろ更にキツく締め上げ見事なくの字のくびれを創りだしていたのだ。
それが日課になっていたからこそ、本当に外していいのかとハモナはネイリーに尋ねたかったのだろう。
(まぁ、それもこれも全てはレグラス様のために行ってたことなんだけどね。ネイリーって見かけによらず一途だったのね。あんな浮気男のために一日に何回もコルセットを締め直していたと思うと心から尊敬するわ。まぁ、私には無理だけど。しかもあんな浮気男のためにとか絶対嫌)
コルセットが外され、息苦しかった呼吸が楽になる。
ネイリ―の体にはくっきりと締め付けられた痕が痛々しく残っていた。
(うわ~赤くなってる。やっぱり、コルセットって体によくないよ)
この世界の事は未だによく分かってはいなかったが、少なくとも自身が入ってしった本来の身体の持ち主であるネイリーがとても良い子なのは記憶を共有する中で分かった。
(悪役令嬢とかいうからどんな酷い子かと思ったけど、不器用な女の子なだけなのよね)
少なくともネイリ―が幸せになってほしいと思うほどには、親しみを抱くことができた。
(あっ、そっか。今は私がネイリ―なんだから、私がネイリ―を幸せにしてあげればいいのか)
「お嬢様?どうかなさいましたか?」
赤くなった腰回りを見つめて、微動だにしないネイリ―を心配しハモナが声をかける。
その手にはネイリ―のネグリジェが握られていた。
「ねぇ、ハモナ。寝る前に一つお願いしていいかしら?貴女にしか頼めない事なの。」
ネイリ―は美しい顔に優美な笑みを貼り付けハモナに向かい微笑んだ。
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