第10話 2027年7月2日(金)

(午前)

留学から7年後。彼はポーランドに舞い戻ってきた。そして、地下鉄を乗り継いで住まいに向かう。日本に数年いた分、懐かしさと新鮮さが入り混じった不思議な気持ちだ。変わっているところもあれば、変わっていないところもある。そんなことを考えていると、煉瓦作りのアパートが見えてきた。


(午後)

バルコニーに出た。手には数年前から持ち運んでいる「Quiet」という本。白が基調な上に、タイトルまで白いという一遍変わった本だ。あまりに読みすぎて端が擦り切れていたので数ヶ月前に、雑貨屋で買った赤いテープを端にそって貼り付けていた。白に赤のアクセントが加わり、いいデザインに仕上がっている。今日は清々しい風が吹いている。彼は腰を下ろし、本を読み始めた。30ページほど読むと、向かいの建物から視線が向けられていることに彼は気づいた。そこには赤いパーカーを着た青年が目を見開いてこちらを見ていたのだった。その目には狂気さえ感じられた。

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