第8話 2020年4月25日(土)

腫れた目を擦りながら彼は目を覚ました。作りかけのカレーを取りにいくと、コンロに鍋はなく、無残にも黒いゴミ箱に捨てられていた。彼は深いため息をつきながら部屋に戻り窓際の席に座った。そして1ヶ月以上開けていなかったカーテンを久しぶりに開けた。その頃の彼は日常の大半を寮の外で過ごしていたために、部屋にいることはほぼなかったのだ。すると向かいの隣人がベーグルを友人と食べているのが見えた。相変わらずオーラがある。隣人もさることながら友人のレベルが桁違いだった。太ももまである大きめの白いカッターシャツに、アイマスクを頭に乗っけた彼女はオードリーヘップバーンを彷彿とさせた。まるで『ティファニーでの朝食』の映画のワンシーンのようであった。


見ているとふつふつと隣人に対して怒りが込み上げてきた。隣人は全く悪くない。彼自身も何がなんだかわからなかった。彼はどこにも向けれない怒りや悲しみの矛先を隣人に向けることによって解決しようとしたのかもしれない。彼は隣人に向かって短く咆哮した。しかし、その声は届かない。窓に反射し、部屋を飛び回るだけだった。彼は自身の声を聞きながら、ある決心をした。周りを変えることができないなら自分を変えるしかない。

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