第7話 2020年4月24日(金)

事件は寮の共同キッチンで起こった。カレーを作っていた彼は隣でポーランドの郷土料理らしいものを作っている女性に興味を持った。スラリとした姿で黒のパーカーにスキニーパンツとかなりラフな格好をした彼女はバス停のグッチのポスターから抜け出したかのような美貌を兼ね備えていた。身長も175cmはあるだろう。同じ寮に住んでいるわけだから、同じ大学なのは間違いないはずだった。彼はどうにかして彼女と仲良くなりたいと考え、そこで彼女が作っているポテトパンケーキの名前を聞いてみることを思いついた。しかし、彼の思惑は果てなく潰えることになる。なぜなら彼女は英語を全く話せなかったからだ。辿々しい英語で「すみません。英語は話せません」と言われた。彼はせっかくのチャンスを逃したことを後悔しながらも、申し訳なさそうに謝る彼女に対して好印象を抱いたままだった。


ところが数分後、彼は驚きの光景を目にした。カレールーを取りに戻る中で、先ほどの女性が廊下で流暢に英語を話していたのである。うまく聞き取れなかったが、話している内容も明らかに彼を嘲笑したものだった。彼は存在を消し、目線を下に向けてぐんぐんと部屋に戻った。そして鏡の前に立つと、そこには肉団子のような東洋人が立っているだけだった。彼はそのままベットで布団を被り、涙が枯れるまで泣き続けた。部屋は静まりかえり、布団に全身くるまった彼は初めて暗闇の中で一夜を過ごした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る