第6話 2020年3月12日(木)

彼は久しぶりに大学内の広場に来ていた。授業を受けるためだ。上を見上げるとガラスで作られたピラミッド式の天井がある。突き抜ける青空から注ぐ光は数多の窓に反射して彼に浸透していった。無意識に口をあんぐり開けた彼は傍から見ると間抜けだったに違いない。体に息吹を感じると彼は吹き抜けが特徴的な大学の階段を登った。3階にたどり着く頃には、額に汗がにじんでいた。そして「AULA Ⅰ」に入ると小さな講堂ではまもなく地政学が行われようとしていた。彼は一番前の真ん中の席に座る。ついに彼は一歩踏み出したのだ。何が彼を突き動かしたのかは定かではないが、彼自身の中で小さな変革が起きているのは間違いなかった。彼は心地よい気持ちで授業を終えると、寮に戻った。すでに日が落ちかけようとしている。部屋に入ると白熱灯の電気を初めてつけた。煩雑に置かれた書籍、新品の食器やフライパン。生活感のあふれる部屋になっていた。疲れていたのか彼はそのままベットに転がって寝てしまった。彼の部屋のカーテンは閉められたままだったが、それでも向かい建物からの眩い光は彼の部屋に一筋の明かりを届けていた。

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