第15話

 ルリィはプリースト用の後衛職の割り振りをしている。それなのに軽々と大鎌による連撃を避け、その隙に的確な一撃を確実に入れていた。

 戦闘センスと言うべきだろうか。それが彼女にはあった。


 戦闘に見入っていると、デステラーがルリィと中級アンデットとの戦闘を切り上げ、狙いである俺の方へと迫って来ていた。


 既に相手の大鎌の攻撃範囲内。


シャドウコフィンで凌ぐか!? いや、間に合わない!

 なら――踏み込んだ際に消費魂分に比例した距離を一瞬で縮める武具スキル、デスアクセルでこの場を切り抜ける!


「ウォラアッ!」


 大鎌が斜めから振り下ろされる。その軌道の一瞬を――走り抜けた。


「はぁっ……」


 ぶっちゃけ本番の賭けだったが、なんとか成功したらしく、俺の眼前にはデステラーの背が映る。


 今度はこっちの番だ……!


 黒い刃が紫色のオーラを纏い、増幅し――


「デスサイズッ!」


 多くの魂を喰わせたその大鎌が、遂に大振りな縦の軌道を描く。


 ――両断。


 その後、デステラーは悲鳴も断末魔も上げず、静かに黒い灰となって消えて行った。


「やった……か?」


 二人を閉じ込めていた檻が壊れ、開放される。

 それと同時に三つのウィンドウが現れた。


『死霊スキル ネザーワープを獲得しました』

『死霊スキル アンデットボムを獲得しました』

『死霊スキル シャドウイリュージョンを獲得しました』


 まさかのLv28まで上がっていた。

 だがLv40のメルゼでさえ倒す事ができなかった訳だからもう少し高くても良い気がする。


「ゴ主人! ルリィ! ガイコツドラゴン! カッコよかったゾ!」

「凄かったですっ! トランスがあそこまで身体に負担がかかるとは思っていませんでしたが……それに耐え切って勝ち筋を作り、それを活かし、かっこよくフィニッシュ!! う〜っ!! 燃えました!!」


 二人がキラキラした目で言い寄って来る。

 だが俺は殆ど何もしていない。中級アンデットを出し、メルゼにトランスを発動して、少し指示を出し、最後にデスサイズで斬っただけ。

 本当に褒められるべきはメルゼとルリィだと言えよう。


「それに凄いレベルアップしたみたいですね!?」

「28になったらしいな。スキル枠が圧迫するのなんの」


 少し遅れて、もう一つウィンドウが現れた。またスキル獲得かと思いながら目を向けると、どうもそうでは無いらしい。


『ダンジョンボス・デステラー討伐報酬 死霊術師アビリティを一つ解放しました』


 アビリティを解放? 死霊術師のアビリティって確かLvに関係なくステータスが全て1にさせられたり、死んだらLv1からだったり。とかそういう……アレ?

 まさかこちらが不利になるような物を解放したり……とかはないよな!?


 急いでアビリティを確認する。

 すると、今までのアビリティに付け加え、もう一つ、使役死霊の数に比例して獲得経験値が増える。というものが追加されていた。


「……ふう。良かった」


 安心した。流石にこれ以上本体が弱くなったら困る。

 デスサイズだってSTRが無いからどうしても大振りで隙だらけになってしまうからな。攻撃手段があるだけまだマシだが。


「あの……です」


 すたすたとこちらまで、ウィンドウを見ながらルリィが歩いてくる。


「どうした?」

「……ユニークジョブ、治癒撃士ブレイクヒーラーって……チュートリアル受けた方がいいです!?」


 ウサメに視線が集まる。が、そんなのは知らないと言わんばかりの困惑した表情。

 恐らくVRMMO内、三人目となるユニークジョブ保持者が死霊のルリィになるとは予想だにしなかった。


「俺から言えるのは、チュートリアルは受ける方が良いってことだな」


 普通のジョブでは無い事は確か。チュートリアルをささっと受けて理解を深めるのが一番だ。


「えっと解放条件は……ステータスポイントにSTRとAGIを振っていない状態で、Lv30に到達する前にSTRとAGIがそれぞれ1500に達した最初の司祭プリースト。特徴は、攻撃を与えたり、回避する度に自分か味方の体力回復が出来るアビリティを持つ。司祭スキルを一部使用可能……」


 ウサメがヘルプ画面に移行して、治癒撃士の詳細を話す。

 物凄く限定的で、誰も分かるはずのない解放条件だったり、


「本来ユニークジョブって言うのは通常プレイでは見つけることが出来ない職業。それ故に多少無茶な条件であったり、大会優勝賞品だったり……誇りを持ってブレイクヒーラーをするといいんじゃないかな!? ね!? そう思うよね!?」


 瞳をこれでもかと輝かせ、興奮しながらこちらを見てくる。


「まあそうだな。俺は剣士がやりたかったが、身体が死んで死霊術師。最初は困惑したし、剣士を手に入れたら剣士にジョブチェンジしようと考えていたが……今は死霊術師一筋でやっていこうと思っているよ」


 素の性能が弱い死霊術師も、頼れる仲間である使役死霊がいれば、これ以上に無いほど強い職業になる。

 仲間だよりな所は否めないが。


「まあデステラーも倒した事だし、【恐死の亡き声】も手に入ったし……」


 さあ帰るかと壊れた扉を見たその時――


「……ステラちゃん。あんなだったけど本当はいい子なんだよ……?」

「……アイツはタダ寂しかったのダ」


 襲われても尚、ウサメとミントはデステラーに対して悪いイメージを持っている様子ではなかった。決して悪くは無いと訴えているようにも感じた。


 確かに、変貌する前は悪い感じでは無かった。

 それを助長するように、連れ去られた二人は擁護している。


「もしかしたら……」


 俺はアイテム欄を確認する。ボスモンスターだ、目新しい何かがあってもおかしくない。

 探していると、やはりと言うべきか、幸運な事にと言うべきか、【恐死の魂】が1つアイテム欄に入っていた。


「多分だが……蘇らせられるぞ?」


 二人の暗く寂しそうな表情が途端に明るくなる。


「いいか? ルリィ、メルゼ」

「私はいいですよ!」

「我が主が決めた事に異論は無い」


 満場一致。ということで――


「発動、リインカネーション!」


 使用する魂を問われる。【魔物の魂】と【恐死の魂】。勿論、後者を選んだ。

 すると、キャラクタークリエイトを

すっ飛ばし、半透明な身体が形成されていく。

 半透明の少女。全身は透き通り先まで見える薄い白一色。髪は肩甲骨辺りまで伸びている。何一つ討伐される前と変わらない、デステラーが蘇った。


『デステラー ステラを白魔黒の使役死霊として登録します』


 ぱっちりと目を開ける。


「こ、怖いお面の人! そっか……ステラ、負けちゃったんだ」


 全てを察したように、デステラーことステラはそう言う。


「ごめんなさい……」

「いや、ボスモンスターな訳だし別に責める気は無いよ」


 プレイヤーを襲わないボスモンスターなんてまずいないだろう。

 それはそうとして――


「折角だから俺らの仲間にならないか? という誘いなんだが」


 ウサメの背後に身を潜める。恐らくそこが一番落ち着くのだろう。


「でも、ステラは呪いでこのダンジョンから出れなくて――」

「それなら心配ありません! 呪いはもう解かれてますから!」


 ウサメが遮るようにそう言い、振り返って頭を撫でる。

 すると、恐る恐るステラが出てきて――


「……お、お世話になります」

「よろしくな、ステラ」


 そう言って俺も頭を撫でようとした次の瞬間――


「きゃああぁああっ! ガブウッ! ……あっ! ご、ごめんなさいっ!」


 俺は噛み付かれて死んだ――


「白魔黒様!?」

「ゴ主人ッ!」

「あはは……気にしないでいいよ……うん」


 こんなことで死んでしまうとは情けない。


 その後無事ダンジョンを出て、依頼されたアイテム【恐死の亡き声】を渡しに骨董品店に向かう――



「……らっしゃい。って死霊術師の旦那御一行か。その子は……」


 店長がステラを見て目を大きく張る。


「デステラーのステラ。さっき仲間に加えてきたんだ」


 アイテム欄から依頼されたアイテムを取り出し、カウンターに置く。こんなのが何の役に経つのかは不明だが、依頼された以上はしっかりと果たした。


「――!? こりゃたまげたな。ボスまで手駒にしちまうなんて……旦那は一体何もんだよ……」


 震える声で回答を求められる。


 それに対しての俺の回答はこうだ――


「剣士がしたかったのに死霊術師しか選べなかった……ただのプレイヤーって所かな」

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