第9話
「主! 命令を!」
草原の魔物を踏み殺していたそのドラゴンが、俺を視認すると、首を下げてそう伝えてくる。
何より見た目が怖過ぎる。肋骨の中心部に黒色の火が燃えていることもあってよりおぞましさが強調されている。
完全なるボス級だ。始まりの草原で出てきて良い代物ではない。
それでも俺が主であることは分かっているのか、忠誠心を見せてくれていた。
――仕方が無い。あちらが先に攻撃を仕掛けてきたんだ。
「行くぞ! スカルドラゴン! ここを死の境界線として、来た敵を迎え撃て!」
更に魂の消費を増やし、グレイヴヤードの範囲を広げる。
「我、主に
『スカルドラゴン スカルドラゴンを白魔黒の使役死霊として登録します』
あっ……種族名を名前にしちゃった感じか?
「ごめん! 後でしっかりとした名前付けるから!」
「約束だぞ、我が主ッ!」
スカルドラゴンがグレイヴヤード内に侵攻してきたプレイヤー達を、尾のなぎ払いで一蹴してしまう。
プレイヤーは吹き飛ばされているものの、死亡判定にはなっていない。
圧倒的な差と圧力を感じさせた。
「フッ……口程にもないヤツらよ。貴様らはそこら辺にいるスライムと同格とでも言うのか? 死にたくなくばこの境界線に踏み込まないことだな。次は無いぞ」
そう、煽りと忠告を入り交えて、相手の戦意を消失させる。
既にこの場を去ったプレイヤーも数多い。
ふと使役死霊一覧を表示する。
スカルドラゴンの職業は
俺がレベルアップ出来ないせいで、今の平均レベルがどんなものかよく分からないが。
だが、プレイヤーのデスペナリティを考慮して手加減をしている事だけはよく分かる。
「くっ……! 皆の者ッ! 立ち上がるのだ!」
だが、立ち上がる者は誰一人として居ない。そればかりか、スカルドラゴンを見て街の方へ逃げていく始末。
「クソッ……」
「身の程を知れ。今の貴様らじゃ我には何をしても勝てぬ。次は容赦せぬぞ」
その言葉はとても重く、理屈を超越した理不尽さを突き付けるようだった。
「うぉぉぉおおッ! 黙れこの骸骨風情がぁあああ!」
境界線外から砲撃を噛ます。が、一切効き目が無いように見受けられた。
「え……?」
困惑の表情を見せ、地面へと落ちる。MP切れだろう。
「弱い――主よ」
「……分かった」
俺が動き、グレイヴヤードを魔砲使いの足元辺りに忍ばせる。
「やめろぉぉお! やめてくれぇええ!」
だが、そんな命乞いも意味を成すことはなく――
「強くなって出直して来るが良い」
その大きな顎を開き、魔砲使いを――
「来るなッ! 来るなぁあああッ!」
――噛み砕いた。
そして光の粒子となって、骨の隙間から真っ暗な空へ昇っていく。
あまりにも理不尽な、それもトラウマレベルの惨状を見せつけられた気分だった。
「さて、この場にいる魔物やらを倒せば宜しいか?」
「そ、そうだな。頼めるか?」
あの惨劇を行った後でも、本龍は平然としていた。
「この我にお任せあれ」
あれ以来、この平原には長らく他のプレイヤーが近付かなくなっていた。
近付いても、スカルドラゴンを見て怯え逃げるのがほとんど。
グレイヴヤード内に入らなければ問題ないと分かったプレイヤー達は避けてレベリングをしていたが、鬱陶しそうではあった。
この状況を作り出した当の本人である俺は、シャドウコフィンの中でスペクターマップを使用して外の様子を傍観している。
「……暇だ」
ほとんど俺がする事は無かった為、掲示板で様々な話題を見て回った。
それぐらいしかやる事が無かった。
既に魂の数は100を超え、レベルは13に突入する。が、ステータスは一切1から変わらない。
そのまま時間は流れ、事は起きた。
「キャァッ!」
スカルドラゴンが悲鳴を上げる為、何事かとシャドウコフィンを解除する。
すると、あれだけ大きかったスカルドラゴンが小さくなっていった。
そして、手乗りサイズまで姿を変えてると、これ以上は小さくならなくなった。
「主! 助けてくれ! スライムがこっちにくるっ!」
「……え?」
また、使役死霊の一覧を表示する。
スカルドラゴン Lv1
あぁ……多分これ、魂を食った総数でLvが上がっていくのか。そしてそれには制限時間があると。
「ずっと此処に居ても他のプレイヤーの迷惑になるだろう」
グレイヴヤードを最小ラインまで下げる。
「さあ撤退だ。俺の仲間達がいる場所でしっかりとした君の名前を付けようか」
「わ、わかった!」
俺の隣を小さな骨だけで構成されたドラゴンが小さな翼で一生懸命飛ぶ。かなりその姿は愛くるしく感じられた。骨だけで、本来は恐ろしい存在の筈なのに。
魂を与えてあげようと思ったが、クールタイムの様なモノで丸々12時間は与えられないようだった。
本当にこれは切り札的な運用が主流となりそうだ。
日が昇る前に、宿屋に戻った。
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