第8話


 あれから数時間が経ち、夜も深くなり始めた頃、俺はある深刻な事態に陥っていた。


「眠く……ない」


 なんと、一切眠くないのだ。それだけではなく、食欲も無い。

 死人だからだろうか。意識だけが|ここ《

VRMMO》にあるからだろうか。真相は分からないが、人間の欲求そのものが根こそぎ奪われている気分だ。

 もう人間じゃなくて死人だから有り得ない話でも無いんだが。それでも何かやはり失った物が大きい気がしてならない。


 三度の飯より睡眠だった俺は、寝れないというこの状況に苛立ちを覚えていた。

 かと言ってこの身体。レベリングしようったってすぐ死んでリセットされるのだ。やる意味が見当たらない。


「……ぐぬぬ。コイツらはもう呑気に寝ているし」


 仲良く三人寄り添って寝ている。アレから色々意気投合したのか、心から許し合う中にまで進展していた。色々意地悪もしたいのだが、起きた時に言い訳が出来ないのがなんとも辛い。

 ここに居ても仕方がない。そう思い立ち、宿屋を後にする。


 街中は案外と人が多く、賑わっている。現実世界では昼頃ぐらいだろうか? 昼夜逆転している訳だ。納得が行く。少々空気が肌寒い。

 残りの魂の総数は5。これだけあれば幾らでも魂が手に入るだろう。

 俺は夜が開けるまで、平原にて戦闘と死霊術の訓練を行うことにした。



 平原に辿り着くと、そこでは何か人溜まりができていた。

 それを遠くから見る。


 この暗い夜を照らすほどの明るい光を、何発も何者かが放っているのを、大勢の人が見ている様子だった。


「これがユニークジョブ、魔砲使い《マジカルシューター》か!」

「すげぇ! 魔物が次々と殲滅されていく!」


 ユニークジョブという単語が聞こえた為、しばらく見ていると、金と赤が基調となった豪華な装備を身に付けている女性が人溜まりの中心から飛び出てくる。足から青色の炎が吹き出ていた。

 顔はここからだとよく見えない。

 性別の偽装は出来ないので、本当の女性プレイヤーなのだろう。その時点でもう珍しい。


「次砲撃されたい奴は前に出ろ!」

「「わぁああー!」」


 ドッと歓声が巻き起こる。

 まるでその様はアイドルのライブのようだった。


 武器は恐らく、前情報でも一切見た事が無いメカメカしい砲台の数々。それが身体中の至る所に付いている。これらを駆使して飛んでいると解釈するのが妥当か。

 恐らく動力源はMPだろう。凄くと楽しそうなユニークジョブもあったもんだ。


 魔砲使いが暴れている今、迂闊にリアニメイトを使おうものなら殲滅されてしまうだろう。少し離れた位置に移動するか。


「そこのアンデットよ!」


 ……まさか俺の事を言っている?


「俺様の目は誤魔化せないぞ!」


 あ、これ不味いやつだ。


「潔く経験値になれッ!」


 両腕を俺に向ける。腕に付いた砲台全てが青く光り輝き――


「待て! 俺もプレ――」


 ――ズドドドドッ!!


 爆音が草原に響き渡る。

 そして、暫くして――


「おぉおお! ってゆーかあれなんだったんだ?」

「レアモンスターじゃね?」


 歓声が爆音と同じ程、鳴り響いていた。

 咄嗟のシャドウコフィンを発動できて助かった。意外と耐久力があるんだなこれ。

 別に失う物も特に無く、殺されても良かったのだが、何処まで抵抗できるのか試してみたいとも思っていた。


「な、なんだあの棺桶!?」

「相手にとって不足なし! 皆の者は下がっていろ!」


 いや、不足しか無いはずだが!?

 くそっ……相手は完全に俺をアンデット。すなわち少々珍しいぐらいの魔物だと思っていやがる。

 棺桶の中からの声は伝わりにくいし、何より相手が集中砲火してくるせいで伝わるわけもない。


「なんて荒々しい奴なんだ……まあ、あっちがその気なら俺だってやってやんよ!」


 タダで殺られる気は毛頭ない。

 それに死霊術師が何処まで抗えるのか試す良いチャンスだ。

 まずは魂を集めなければな。

 魂を1つ消費してグレイヴヤード!

 棺桶の背後に魂を3つ消費して中級アンデット召喚! 魔物を狙って魂を回収しろ!


「お、おい! なんか黒い霧が出てきたぞ!?」

「だ、だがなんにも起きないな……?」

「油断は大敵だ! 誰も手出しをするな!」


 よしよし。霧を警戒して魔砲を撃ってこなくなった。それにまだ中級アンデットが棺桶の背後で魔物を狩っている事も知られていない。

 おぉ、もう既に12個も! どんどん増えていくな……20……30……25? あれ? なんか増え方が変じゃないか?

 増えては減ってそれ以上増えて。そんな風に……。


「グォオオオ!!」


 此処で聞こえるはずのない雄叫びが聞こえる。

 なにかが……おかしい?


「ギャアアアッ!」

「なんであんなのが序盤にいるんだよぉおお!」


 一旦、シャドウコフィンを解除して背後を確認する。


「ぎゃああああっ!?」


 骨だけで構成されたドラゴンが、草原にいる魔物を踏み殺して回っていた。

 そしてそれは次第に大きくなっていく。


 中級アンデットって……なんだっけ?

 変異種って……なんだっけ?


「ひ、怯むな! 戦えるものは立ち上がれ! 奴を討伐するぞ! きっと凄い経験値量だ!」

「「オーッ!!」」


 そう魔砲使いが他のプレイヤー達を鼓舞し、俺らに目掛けて一斉に突撃してきた――

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