第7話
金髪のボブカットにちょっとしたアホ毛が立っている。
身長は低く全体的に愛くるしくデザインされた、耳の尖った少女の姿がそこに映っていた。
赤と黒のオッドアイなのはウサメさん曰く譲れないらしい。種族はエルフで名前はルリィ。
職業は
「白魔黒様は全ステータスが1で固定ですから、ステータスポイントという物を知らなくて当然でしょう」
筒抜けでお見通しだった。
「これはキャラクタークリエイトの時に100ポイント与えられるんですよ。初めに付けたポイントを元に、レベルアップした際に伸びやすいところ、伸びにくいところが決められるんです。別に付けなければ低く育つだけですね」
はへ〜と頷く。
つまりここでプレイヤーの戦闘に個性が現れるという訳だ。
そもそもステータスポイントなんてシステム、俺には全くもって関係の無い話だが。
「とまあこんな感じに仕上がりました。これが一番プリーストを活躍させられる振り方だと思いますよ」
そして、ステータスポイントの割り振りを見させられる。
体力等のHPに20、魔法を使える量に関係するMPに30、魔法の効果量や魔法攻撃に対する耐性に関係するMNDに70を割いただけなのだが、シンプルこそが一番良いのだろう。
「プリーストはその職業上、サポートがメインとなります。上位職に|司教《
ビショップ》が居ますが、アレは光属性攻撃に重きを置いた攻撃的な職業ですので、回復等のサポートが強いプリーストを活かすにはこれが一番良いはずです。HPを使うスキルもあるので念の為20程。少しでも耐久面が高ければ、不意の出来事で困る事もありません」
誰も知りえないような情報を、一人だけ入手出来ているということになるよな……?
かなり情報量でアドバンテージを得られた。スタートダッシュが酷かった俺には有難い限りだ。
「ウサメさんがそう言うならそうなんだな。頼りにしてるぜ」
大きく目を開けて、頬を赤らめ始めた。
次に、ぱくぱくと口を開け閉めしたり、瞬きをしたり。頼りにされる事が生きる喜びだと言うような感じだった。
「お、おお、おおおっ――お任せ下さい!」
深く頭を下げる。
フサァッと後ろ髪が前に流れていった。
「そ、それでは一緒に押しましょう!」
柔らかな手で俺の冷たい手を取り、人差し指を立たせる。そして、作成と書かれたボタンを押した。
すると、目の前に光の渦が出来始め、つま先から始まり、頭のてっぺんまで出来上がっていく。
しばらくもしない内に、全てが構築し終わった。
『エルフ ルリィを白魔黒の使役死霊として登録します』
すぐに使役死霊の通知が来る。
「きゃーっ! 可愛いぃ〜!」
ウサメさんが出てきたルリィに全身でホールドすると、そのまま頬を擦り付けた。
「ひいっ……!? 食べないで下さいですぅ! ……アレ? 私、スライムじゃない?」
あの時ミントに食べられたスライムの一匹だろうか。かなり怯えている様子だった。
「大丈夫。食べませんよ! 詳しい話は後でしましょう!」
「は、はい……です?」
――こうして、チート染みた情報量の持ち主であり、本来最初に会うはずだったNPC兼メイド兼使役死霊であるウサメと、ウサメが創り出したNPCエルリィトと共に、ミントが眠る宿屋に転送で帰ってきた。
ミントはやはりと言うべきか、爆睡している。叩いても起きない感じのやつだ。
『兎人 ウサメを白魔黒の使役死霊として登録します』
ここに来て使役死霊の通知が来た。
「ひゃあぁあ! あの時のゾンビさん! 助けてくださいですう!」
そう悲鳴のように言って、指をさす。
一瞬起きるのではとヒヤッとしたが、全くと言っていいほど起きる気配が無い。
「大丈夫。アイツはミントって言うんだ。悪いゾンビじゃないから、言い聞かせればとって食ったりなんてしない筈だ」
泣きべそをかくルリィにそう言い聞かせると、ずるずると鼻をすすり、三回ぐらい素早く頷く。
「へ〜彼女が白魔黒様の初めての使役死霊さんですかぁ〜……へ〜」
ウサメさんはウサメさんでガンを付けていた。
さすがにここまで堕落していると……あまり良い印象は持たれないだろう。
「なんともダラしない寝方ですねぇ。お腹出して……布団蹴っ飛ばして……」
近付く。叩き起すのではないかと心配したが、服を元に戻した後、布団を被せ直して、頭を優しく撫でたのだ。
予想外だった。
「風邪引いちゃったらどうするんですかね」
ゾンビだし風邪は引かなそうだけど……とにかく優しいんだなぁ。
ふと、使役死霊の一覧を表示する。
ウサメさんの職業は
メイド故に世話焼きでもあるのだろうか?
「それではルリィちゃんを勧誘しようの会を始めますっ!」
「危ないヤツにしか聞こえないが?」
スライムの時の名残か、アホ毛がプルプルと震えている。
「ふわぁあ……ゴ主人? なんかウサギの匂いとヨーセイの匂いがするゾォ?」
あ。起きた。
「私の為に取ってきてくれたんダナ! 感謝スルぞ!」
「ひぃぃいい! やっぱりですぅう!」
かけてくれた布団をまた蹴っ飛ばして、ベッドから跳ね上がる。
「待て!」
ピタッと空中で静止する。
「お座り!」
地面に足をつけた後、正座する。
「こっちの兎人は――」
「食料ダナ!」
「仲間だ」
「ナント!?」
「ウサメと言います」
顎が外れる程、あんぐりと口が開いた驚愕の表情を見せる。
ウサメさんは不機嫌そうに睨みつける。
「こっちのエルフは――」
「非常食ダナ!」
「ひいいいい! ルリィですううう! 非常食ではありませんですぅうう!」
「仲間だ」
またまた目を見開いて、驚愕の表情を見せた。
ルリィは怯えきっており、それを表すかのようにアホ毛が扇風機の羽かと疑うぐらい回っている。
どうなってんだそれは。
「まあ、二人とも新しい仲間なんだが……」
「つまり食べれない系のナカマだな! 了解シタ!」
「理解が早くて助かるよ」
逆に食べれる系の仲間ってなんだ……?
「ウサメとルリィ……ダッタナ? 私はミントだ! よろしくタノムぞ!」
「俺からも改めて、よろしく頼むよ」
ウサメさんとルリィは互いに顔を見合わせ、頷く。
「よろしくお願いしますね。先輩」
「よよよ……よろ……よろしくです!」
何とか上手く行った……のだろうか。
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