第5話
あれから数分後。色々と頭に詰め込んで疲れたのか、クカーっと寝息を立てて熟睡してしまっている。
ゾンビでも寝るんだと内心驚いた。
これで飛ばしたチュートリアルがやっと出来る。やっぱり初心者、それも訳の分からない死霊術師という職業な訳だ。受けとかないとそもそも行き詰まるだろう。
分かりやすい職業では無い。
『死霊術師のチュートリアルを開始します。フィールド・チュートリアル会場(死霊術師)に転送しますが宜しいですか』
また、YESかNOかの質問が出てくるが、今回はYESだ。徹底的に死霊術師という職業を理解してやる。
視界が暗転し、気が付くと宿屋では無い別の場所へ来ていた。ウィンドウに書かれていた通りに一見闘技場のようにも見えるチュートリアル会場とやらに転送されたと考えられる。
「お待ちしておりました。白魔黒様」
女性の声が聞こえ、振り返る。
メイド姿の上品な雰囲気を持つ容姿端麗で銀色の長い髪を持つ女性がそこに居た。
更に、兎の耳がピンとその存在感を主張するように生えている。
「長い……長い間……一人寂しく……うぅっ」
唐突に涙を流し始める。
「でも来てくれたのでホっとしましたよぉ。もし来てくれなかったら私、孤独死しちゃうところだったのですよ? ささチュートリアルを始めましょう!」
兎は別に孤独死しないぞ。
なんて野暮なツッコミはしないでおこう。
「君は一体……」
「あっ! 自己紹介がまだでしたね! コホン。私は貴方の第一使役死霊となるメイドのウサメと申します! 使役死霊とはなんぞやという顔を……」
……悪い。多分これ、本当に申し訳ないが順番的に一番最初にするべき事だったに違いない。そうだ、絶対にそうだ。
「してない!? まさかこの私を差し置いて他所で使役死霊を!?」
「人聞きが悪いなっ! まあそんな感じだ。本当にすまない。チュートリアルを先にすればよかったな……」
そうすれば俺だって無駄に死ななくて済んだかもしれないし。
プルプルとあのスライムもビックリな程、兎耳が震えている。目も自然と潤んでいた。
「な、泣かないでくれ! 俺だってサービス開始して浮かれてたんだよ……」
「うぐっ……えぐっ……いいですよ……もういいですよぅだ。既に使役死霊がもういるなら私なんて……必要のないオンナですよぅだ。ひっく……」
地面に体操座りをしていじけはじめる。
さてどうしたものか。このまま放置しておくのは先にも進まないし、ウサメさんが可哀想だ。それに、かなり人聞きの悪いことを言ってくるのが本当に心苦しい。
何とかして立ち直らせたいが……あぁ、必要として欲しいのか。
「ま、まあ泣き止んでくれ。いま俺が君を必要としているじゃないか! チュートリアルを始めるんだろ?」
少し間を開けて――
「……で、では約束して下さい」
――震えた声で言い出す。
身体中に必要ではない力が入っているのを感じた。
「不必要になっても……どうか見捨てないで下さい……」
真っ赤になった顔と、涙が伝った跡のある頬。その言い草や態度は、俺の中にある言葉では言い表せない様な何かを刺激した。
「あぁ、分かった。絶対に見捨てない。絶対にだ」
「……私、生真面目なので信じちゃいますよ?」
「んー……あぁ、信じてくれ」
泣いたあとだからだろうか、歪であはるが、晴れやかな笑顔を見せてくれた。
そして涙をハンカチで拭き取ると、立ち上がる。
「では! これよりチュートリアルを始めます!」
そう言って指を鳴らすと、前方に魔法陣が展開されていき、ゴブリンと思わしき魔物が姿を現す。
「使役死霊を既に手にしている……という事なのでもう既にしているとは思いますが! リアニメイトをしてみましょう!」
先程ミントを出した様にすればいい感じか。
「発動! リアニメイト!」
魂消費量は……まあ今は1でいいだろう。
案外早く、今度はスケルトンが出てきてゴブリンの群れに突撃しては敗れる。
「甘いですね。発動までの時間を短縮しましょう。戦場では一分一秒一フレームが惜しいのですよ」
「……そ、そうだな?」
自分が必要だと分かった途端コイツ……まあ確かに正しいことを言っていると言えばそうなのだが。
だが、フレーム単位まで行かんでもいいだろうに。
「短縮するのに大事なのはイメージです。これを発動したらどうなるのかを知っておくと良いでしょう。これをこうしたからこうなった……と」
さっきまで泣きべそをかいていたウサメさんの姿はもう何処にも無く、自信に満ち溢れているようだ。
「指を動かしていましたが、あれも短縮できるのですよ。頭の中でパッとリアニメイトを発動した後を簡単にイメージ。これだけで実は発動できます。他のスキルも同様に出来ると思います」
魂消費量を打ち込む手間も省けて時短になる。
これはかなり重要そうなテクニックだ。VRMMOならではだろう。
「ではもう一度、今度はイメージで」
スケルトンやゾンビが目の前のゴブリンを蹂躙しているイメージ。
ふと目を開けると、スケルトンとゾンビがゴブリンに襲いかかっていたのだ。
「……うお!? マジか! ……でも少し多過ぎるな」
イメージしたものよりも相当多かった。まあ蹂躙はしているので間違いでは無いのだが。
「慣れれば元からあったように、さも身体の一部の様に扱えるようになります。今は出てくる数を上手く調整が出来なくても、練習さえ重ねれば細かな数、また今はランダムですが、いずれスケルトンとゾンビの使い分けも出来るようになると思いますよ」
俺はこの時、ある一種の感動を覚えた。
急がば回れをしておいた方が良かったのだろうと、今更ながらに強く思う。
「それでは次のスキルの理解度も上げちゃいましょう!」
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