第3話
「ゴ主人! ココにいるスライムを食べちまっても良いんダナ!」
両腕と無駄に大きな胸を上下にブンブンふっている。
「……あ、あぁ?」
処理が全く追いつかない。
こういうのは普通、歩く知能を持たない死体ことゾンビ、がヴァーヴァー言って無差別に生き物を喰らう場面である筈なのだ。
なのに、なのにこの美少女は食っても良いかと聞いてきている。
周りにいるプレイヤー全員が目を丸くしていた。勿論俺も例外ではない。
ぽかーんとただその黒髪の美少女ゾンビを見ている。
妙にゾンビらしく、服がはっちゃけている。肉付きは良く、その位の年頃なら発育具合も相当良い類いだろう。
……と、ゾンビに少し欲情してしまっている自分が居た。なんだか凄い恥ずかしい。
「つまりイイってコトだな!」
ぴょんぴょんと楽しそうに跳ねる。それに続いてたゆんたゆんと胸が上下に動くのだ。ぶかぶかな服の隙間から見えてしまいそうでヒヤヒヤする。
なんで……なんで俺はVRMMOの世界に来たことで現実世界では死に、どういう訳か分からないまま、ゾン美少女の揺れ動くおっぱいを見ているんだよ。
……まあ、考えても仕方が無い。
「思いっ切り食っちまえ!」
俺も、思い切って指示を出す。
するとパアっと明るい可愛らしい顔を見せて、プルプルと震えるスライムら目掛けて勢い良くガブり付く。
なんて凶暴な生物なんだ……。
「な、なあ、あんたプレイヤー……だろ?」
傍観していると、一人の片手剣を持った男性プレイヤーに問われる。
おそらく周りと同じく、初期装備のプレイヤーだ。
「そう……ですが?」
俺は実を言うとチャットでの会話は別に良いのだが、面と向かって話すのは苦手な軽いコミュ障だ。
病室に篭ってばかり居て、あまり人と合わないからこうなってしまっている。
「それなんて職業なんだ? あんな凶暴なゾンビ出せるなんて……」
「えーっと、死霊術師です。でもまあ初心者ですし、色々酷いアビリティばっかでロクな職業じゃないですよ」
ロクな職業じゃないとことか、まともじゃ無さすぎるんだよなぁ。これ。
「まあお互い頑張ろうぜ! 俺は投擲用ぼた餅って言うんだ。まあなんだ、情報交換なりなんなりってとこかな。あんがとよ!」
そう言ってにこやかに笑って手を出してくる。
「俺は白魔黒って言います。宜しく」
手を取り握手をする。
死んだ。が、すぐ蘇るので関係ない。
「って冷た! 顔色悪いが死んでんのか?」
驚いた表情で手を離す。
まあ死人だし、しょうが無いか。
「あー……なんか種族が死人みたいで」
今度は鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をする。
「な、なるほど、そうか……大変だな? まあ俺はこれから友達と合う約束があるんでな。失礼するぜ。そうだ、これもなんかの縁。フレンド申請しとくから頼んだぜ。んじゃ」
そう言って光の粒子となって消えてしまう。
やはりログアウト機能が停止しているのは俺だけのようだ。死んでいるので仕方がないのだが。
投擲用ぼた餅からフレンドリクエストが届いた為、承認した。
ふとゾン美少女の方を見ると、そこには地獄絵図が広がっていた。
「ゴ主人! ヤッベーよ! スライムがゾンビになっちまった!」
真っ黒に変色したドロドロになったスライムらがゾン美少女の後を追う。
他のプレイヤー達も慌てふためいていた。
フィールド名は始まりの草原。だがそれは体だけで、実際は地獄の草原と化していたのだ。
「きめえ! こっち来るなぁ!」
一生懸命精一杯走り出す――
「タスけてよ〜!」
全ステータス1の俺。無論ゾンビスライム集団から逃げ切れず、死亡しては無敵時間が無くなるとダメージを受けて即死。その間に殴り続ける。これを繰り返してやっと元の状態に戻った。
何時間格闘したか分からない。
「おま……お前ぇ!」
傍から俺がもがき苦しむ姿を見ていたゾンビ少女を怒鳴りつけようとする
「ヒイッ」
キュッと身を縮めだす。
「許す」
が、あまりにも泣き面にプラスアルファ、上目遣いが可愛い過ぎて許してしまう。
「次からは食べるのは無し。殴って殺すように」
食っちまえ。と命じたのは、誰でもない俺なのだが。
そう言えばと思いアイテム欄を見ると、スライムの素材に付け加えて、【魔物の魂】が18個。【自分の魂】が5個入っていた。
知らず知らずの間にレベルアップしては死んでを繰り返していたらしい。
「ゴ主人……ユルしてくれる?」
潤んだ眼でただじっと見つめてくる。
「許す。許すから上目遣いは……どうか上目遣いだけは辞めてくれッ!」
その光は眩しすぎてそれだけで死んでしまいそうだ!
「ワーイ!」
喜んでいる姿も……果てしなく可愛い。
「ゴ主人、大スキ!」
急に抱きついて来て、無事死亡した。
無敵時間中位は胸の柔らかさを堪能しよう……。
――そうこうしていると五回程死んでいた。
死霊術師、意外と良いかもしれないが……やっぱりチュートリアルはしておくべきだったな……。
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