第2話

 ・種族は死人となる。

 ・全ステータスが1となる。

 ・デスペナリティがレベル全損失に変更。損失した分だけアイテム【自分の魂】を獲得出来る。その場で即復活する。

 ・装備不可。

 ・魔物を倒すと通常のドロップ品に追加して【魔物の魂】を入手出来る。


 ……と、完全に死霊術師のアビリティらしく、仕様だったらしい。しかも解放条件がなんと『ゲーム中にプレイヤーの肉体が死亡すること』だと言う。更に言えばユニークジョブと呼ばれる物で、これ以降、獲得が不可となっているらしい。


 ――つまり、俺の身体はもう既に死んでいて、意識だけがこのゲームに取り残されているということになるらしい。


 何故死んだのかは予想が出来る。

 身体が慣れない負荷に過度な拒絶反応を起こしてしまったから……だろう。

 身体が非常に弱い俺だからと言ってこんな死に方は――なんていじけていても仕方がない。


 まさかゲームに殺される日が来るとは思いもしなかったが、ポジティブに考えればログアウトしなくても良いということだ。寧ろラッキーでは無いだろうか?


 ――流石にラッキーじゃ……無いよな。寧ろアンラッキーか。

 とりあえずログアウト出来るか試してみよう。


『対象の身体が検出されませんでした。ログアウトを中止します』


 ……なるほど、そう来たか。

 意識を返す器が無ければ返せないということだろう。


「こりゃあ考えても仕方がないよな……」


 腕組をして、五分程考える――

 周りのプレイヤーは不思議そうにこちらを見てきていた。


 死んでしまった物は仕方ないが……それでもなんだか腑に落ちないところはある。

 まあ話に聞くと地上波を見れるテレビもあるって話だ。

 とはいえソシャゲもしたかったし……推しのガチャとかの為に溜めてた石もあったし……。

 つべこべ言ってたって始まらないな――


「まあ要するに、現実世界が楽しめなかった俺はここで楽しめば良いってことだよな!」


 青い空に向かってそう叫び、初期装備のまま武器を持たず、向こうに見える草原までかなり遅いが走り出す。



「やっと……ついたぁ……」


 ぜぇぜぇと息を零し、膝をがくつかせながら草原に足を踏み入れる。

 どうしてゲーム内でも病弱じゃなきゃ行けないんだと苦情を入れたくなったが、我慢だ。まずはスライムかそこら辺を探そう。


「お、いたいた」


 早速発見する。

 俺にHPがあるんだから、魔物にもHPの概念はある筈だ。つまり殴り続けていればいつか死ぬ。

 俺は一撃で死ぬが、今死んでも特に失うものは無い。もしかしたら死霊術師最強か!?


 それを試す為にも、プルプルッと震えている青いスライムに殴り掛かる。


「うおらぁ!」


 勢い良く振りかぶった拳はジェル状の身体にゆっくりと吸い込まれていき、締め付けられ――俺のHPが0になり視界がぐらつく。が、即復活した。


「うおっと……今のが死か……」


 復活してから数秒は無敵時間が付与されるらしい。

 そして二回目の死亡が訪れた。


「はあっ……大体無敵時間は五秒ってところだな! じゃあ次は俺の番だぜスライム!」


 左手の攻撃はいとも簡単に右手と同じように吸い込まれていき、使い物にならなくなってしまった。


「……もしかして詰んだ?」


 何とか腕を引っこ抜き、もう一回殴る。これを繰り返すこと五分、やっと一匹のスライムを討伐することができた。


 他のプレイヤーに至っては武器や魔法が使える分10秒も掛かっていないのが少し悔しい。


「やばいぞこれは……」


 もうかれこれやばいやばいとしか言っていない。

 焦燥感で頭がおかしくなりそうだった。


 ふと、魔導師ウィザードを職業とするプレイヤーが魔法を使う様を見る。


「……もしかしてこんな俺でもスキルがあるかもしれない?」


 Lv1だからと諦めていたスキルの存在。

 俺はスキル設定画面に移行する。


「……マジか!」


 声を高くして喜びを表す。

 そこで見たのは既にある八つのスキル。発動可能スキルスロットに入れれるスキルの数は十なのに対して八つと言うのはどういう事かと気になったが、それでも今使えるスキルがこれだけあるということは幸運に思っていいだろう。


「リアニメイト……グレイヴヤード……シャドウコフィン……トランス……リインカネーション……スペクターマップ……ソウルエクスプロージョン……カース……」


 なんか怖い単語ばっかり並んでいた。

 これ使って呪われるとかって無いよな……? と言うか死人だし、元々呪われているようなモンだから流石に無いか。


 使う前に詳細をしっかり見ておかねば、こんな貧弱職業だ。何があるか分かったもんじゃない。


 地面に腰掛けて、スキル詳細を念入りに確認する。


 使うと呪われる系の物は無かったが、カースというスキルは相手に呪いをかける呪い系スキルらしい。

 現状死霊術師唯一の攻撃手段になり得る。が、効果範囲がアンデット以外であり、アンデットには全く持って効果が無い。

 しかも、相手に付与して直ぐに効果が出る訳ではなく、効果が出るのは五分後。五分経てば呪われた相手は即死となるが、そこまでの時間稼ぎと、解除が聖水を頭からかけると言う容易いものである為、中々使えた物じゃない。


 また、自分か魔物のかは問わないが、死霊術全般には【魂】というアイテムが必要なのが伺える。


 要するに魔力やMPが1だとしても使えるようなスキルが、触媒を用いるスキルなのだ。


「……使いにく過ぎないか?」


 結論。スキル・カースは準備不足なプレイヤー相手、つまり対人になら役に立つかもしれない。

 ほんとその程度だ。何故存在するのかさえ分からない。


「まあいい。リアニメイトが基本戦術の要になってくるだろう」


 リアニメイトは、アイテム【魂】を消費する事でスケルトンかゾンビといった初級アンデットを召喚するスキルと記載されている。

 1体に消費する量を3つにすると、強力な魔法を扱えるスケルトンメイジか、基本性能が高めで、より攻撃的なハイゾンビといった中級アンデットが召喚出来るほか、確率はごく稀だが変異種といった物まで出る。

 術者の理解度が増すと効果も上がる。

 現段階では召喚条件5体。召喚平均Lv4との事。


 きっとこのスキルを軸に戦っていくのだろう。


 今ある魂の総数は3。合計して15分以上スライムと格闘して得た大事な魂だが、ここで使わずしてどうする。どうせ出すなら弱いやつより強いやつ! 3つ以上稼いでくれなければ大損だが、それ以上なら大収穫だ。


「発動! リアニメイト!!」


 そう周りの魔導師らがしているように大声で叫ぶ。

 すると魂消費をテキスト上で聞かれる。更に呼び出すのは低級か中級かという問いもある。

 無論今ある全てを中級に消費する。


 ……直ぐに来る訳じゃ無いのか。

 しばらくして、地面を中から突き破るように緑色の腕が勢い良く出て来る。

 そのまま定番の如く、ゾンビが這い出た。


「ぷっはっー! タベちゃうゾー!」


 ……が、それから放たれた言葉は定番の低い呻き声ではなく、明るい女性の元気な声だった。


「……は?」


 俺は思わず、アホみたいな声を零していた――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る