第5話

 ここも随分と仲間が減ってしまった。俺もなんとか振りほどかれないようにと必死にしがみついて生きてきたが、ぼちぼち潮時かもしれない。原因を考えれば枚挙に暇がないが、一番は水質が悪くなったことだろう。あとは生活習慣が変わったことも起因している。まあ俺がいくら考察しようとも無駄なだけなのだが。


 まだこの世界に四季があった時代の人たちは、俺が抱える悩みなんて先進技術でとっくに解決できているだろうと思っていたはずだ。力尽きて去っていった仲間たちもそう信じていたに違いない。もうすぐこの世界も終わってしまうからこれ以上究明する理由がないだろうと、一抜け二抜けと世の研究者は匙を投げた。


 そんなつまらない思いを巡らせていると視界が急に高くなり、おもむろに行く先へ目を遣る。三日振りだろうか。都市機能が従来どおり保持できなくなってから、貯水率も充分な量を確保することができなくなった。昔は一日に何度も入ることができたらしい。


 底冷えするような手狭な空間に入る。シャワーヘッドから安定せずに噴き出した水は、前に浴びたときよりも冷たく、そして金属の臭いが増していた。曖昧な視界の中、抜け落ちて排水溝にからまった仲間たちを俯瞰する。自分の意志ではどうすることもできないのに、頭皮に絡みつかせている足元に力を入れた。


(髪の日々)

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