第3話
もう何度目かなんて数えちゃいないし、最初の自分がどんな扱いだったかすら憶えていない。ぐちゃぐちゃになるまで書きなぐられて、ごみ箱に突っこまされて、水責めにされて、火あぶりにされて。
「飽きる」という言葉は――辞書に喩えるのは少し憚れるが――奴らの辞書にない。自分から口を切ろうものなら、文字通り八つ裂きにされるだろう。そもそも口すらきけないのだが。
灰色味の身体が皺くちゃになる。すぐ近くにいる滑らかなコート紙のあの子も、黒いマジックで身体中醜悪かつ稚拙な駄文で隙間なく埋められている。だけど、ただ黙ってそこに佇んでいる。それが当たり前。ただ俺が異常なだけ。
この世界があと何百年かで消滅するなんて俺には関係がない。黒鉛できた尖ったものや、ゴム製の四角いものを押しつけられては擦られる。用なしになれば原型がなくなるまでドロドロに溶解させられ、薄く延ばされては熱にあてられ、ギロチンのような大きな刃で断裁させられる。その繰り返し。
だけどそろそろ教科書やノートの一部も飽きたから、次あたりでサーマルリサイクルされるのもいいかもしれない。熱エネルギーとして人類に貢献するのもいいと思うし。まあそれを決めるのは俺じゃないし、木の繊維でできた身体に務まるかもいささか微妙なところだ。
あ、また奴らだ。しかしどの時分でも、こういう人種は決まって学生服を着崩すのだなあ。人間って不思議な生き物だ。そう思ったときには、角あたりを掴まれて鋏をいれられていた。次に俺はどんな姿へと変容するのだろうか。
(紙の日々)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます