第2話

 スパコンごときで予測できるほど、未来はみすぼらしいものになってしまった。今の知識では到底理解が及ばないとわかっているものの、今踏みしめているこの地球――大仰に宣うならこの世界が――終わりへと向かっている。それでも、死ぬのは自分が先であることはわかっているから、結局無関係だ。権威ある国会議員が問題提起したとしても、崇高な教祖様が警鐘を鳴らしたとしても、先に命果てるのはお前らだから無関係だろと悪態をつきたくなる。


 石橋のすぐ下を流れている淀んだ川はもう海水に侵されているのか、磯のにおいが鼻をつく。ここにずっと立ち尽くしている理由なんてないけど、姉を置いてそそくさと帰るのは心許ない。今日クラスメイトにつけられた顎の痣に気づかれたくないから、腰を折り曲げ、石橋の手すりに肘をついて、それを隠している。患部をおさえつけているから、絶えず痛みが走る。


 僕の苦悩の日々は積み重なる。地球の日々は刻一刻と費やされていく。明日にでも地球が終わってしまえばいいのに。僕を焦らしては弄んでいるのか。終わりが見えているのに、僕がそこにたどり着くことはない。


 隣にいる姉も夕日が沈んでいく様を自分に重ねてみたりして思い悩んでいたりするのだろう。そうに違いない。弟の僕にだって、それくらいわかる。


(弟の日々)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る