いつまで歩けばいいんだ、ここはどこだ
ふと背後を振り返ったが誰もいなかった。
動く物のない線路沿いの側道を街灯が照らしている。終電を過ぎているので電車が来るはずもない。気のせいだ、残念ながら。
もし車が通ったらヒッチハイクを試みたい。この暗い夜道をどこまで歩けば知った駅に着くのか。まさか終電の終点が最寄り駅より手前だったなんて。
飲み過ぎた。吐き気がする。疲れた。いつまで歩けばいいんだ、ここはどこだ。
泥酔から醒めた頭の中で愚痴と弱音と後悔がぐるぐる回る。
いや、まだ結構酔っ払っているのかもしれない。足が痛くなってきたからそれなりに歩いたつもりだが、なんだかずっと同じ風景が続いている気がする。傍から見たら酷い千鳥足でちっとも前に進んでいないのかもしれない。
右手に線路、左手に塀が並んでいる。どこまで行っても曲がり角や踏切のある交差点に行き当たらない。ずっと真っ直ぐの道が続いている。
街灯がどこまでも延々と点在している。信号機や標識は見当たらない。ずっと向こうまで同じ道が延々と続いている。どこまでも、永遠に――そんなはずはない、そのうち知った道や知った駅に辿り着くはず。
再び背後を振り返った。
誰もいない。
さっきから何度も背後を振り返っている。なぜか背後からなにかが近付いているような気がする。足音も聞こえないのに。
草の揺れる音や自動車のエンジン音も聞こえない。深夜とはいえ、どこかしらから生活音が聞こえてきてもよさそうなもんだが、どこからもなにも聞こえない。
静かだ。
スマホは充電切れ、助けは呼べない。
いつかどこかに辿り着くまで歩き続けるしかない。
いつまで? どこまで? 方角は合っているのか? いや、現状一本道なのだから方角は関係ないか……待てよ……方角、方向か……とある事実に気付き、じっと耳を澄ませる、肌を研ぎ澄ませる。
――やっぱり、風が吹いている。妙な風だ。
前から後ろに向かって、微弱な風が絶えず後ろに流れ続けている。後ろになにか大きな穴が空いていて、そこに空気が吸われているような――そんな想像が浮かぶ。
背後を振り返る。
向こう側に目を凝らす。
等間隔で街灯が延々と照らし続けている――かのように見えるが、はるか彼方、街灯が途切れている。そこから先は暗闇。何も見えない。そんなはずはない、あっちから歩いてきたのに。どこも街灯は切れていなかった。
一番遠い街灯が消えた。
しばらく経って、また消えた。
ほら、また消えた。暗闇が迫っている。
風が強くなった。吸い込むような風が。
――なにか巨大なものがなにもかも吸い込みながら、ゆっくり迫ってきている。
有り得ない妄想が浮かぶ――本当に有り得ない? 本当に?
妄想を振り払うことができず、乳酸の溜まった足で駆け出した。
ここはどこだ。どこまで走ればいい? どこにも出口は見当たらない。やがて足が攣って転倒して立ち上がれなくなって――そんな想像が浮かぶも走るしかない。そして今。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます