夜の九時に戻っている

 ふと目が覚めてスマホの時計を見るとまた夜の九時だった。壊れたのか?

 疲れたので早めに寝ることにした。その時見た時計が九時を示したはず。

 電気を消した自室のベッドの上。充電ケーブルの刺さったスマホをベッドサイドに戻して、その脇に置いてあるデジタル電波置き時計も見てみたが、こっちも九時。日付も変わっていない。

 体の感覚はと言えばまだ眠い。もしかしたら八時に寝て、九時に目を覚ましたということなのかもしれない。時計の表示を見間違えたのだろう。

 私は布団を掻き上げ、再び眠りに就いた。そして目を覚まして時計を見た。

 夜の九時。両方の時計を確認した。やはり夜の九時。日付は変わっていない。

 ベッドから出て部屋の電気を点け、リビングに行ってテレビのリモコンを探し、テレビの電源を入れる。テレビの画面の右上に表示される時刻も夜の九時。

 自分の部屋に戻ってパソコンを立ち上げ、液晶画面の右下に表示される時刻を確認する。こっちも夜の九時。勿論、日付は変わっていない。

 私は夢でも見ているのか。

 まだ眠い。部屋の電気を消して、もう一度眠った。そして目を覚ましてスマホの時計を見た。夜の九時。何かがおかしい。

 私はリビングに行ってソファに座ると、テレビの電源を入れて適当な番組を選んだ。特に面白くはないが、かろうじて眠らずに済む。

 零時が近付いてきた頃、私は猛烈な眠気に襲われた。

 強制的に意識が途絶えさせられ、そして私はベッドで目を覚ました。

 夜の九時。日付は変わっていない。眠いという体の状態も変わらず。

 時間が巻き戻っている。

 夜の九時に戻っている。

 私はジャケットを着て車の鍵を引っ掴み、外に出た。

 車に乗り込み、キーを回す。目覚めたエンジンが唸りを上げる。

 シートベルトを締め、ヘッドライトを付け、アクセルを踏み込み、猛然と発進する。行き先は決めていない。大通りに出るや、ひたすら速度を上げて突っ走る。

 加速、加速、加速。地方都市とは言え、車の通りはゼロではない。強引に追い越し、信号も無視。危険な運転を三時間休憩なしでぶっ通しでし続ける。

 零時が近付く。

 猛烈な眠気に襲われる。

 ハンドルの操作が滑り、私は電信柱に追突した。

 次の瞬間、私はベッドに戻っていた。見なくても分かる。また夜の九時。中途半端な眠気が苛立ちを強める。こうなったらありとあらゆる行動を試してやる。

 私はスマホをベッドの角にぶつけて叩き割った。

 そして今。

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