俺は果たして俺のままなのだろうか
ふと見上げた信号機の地名板が文字化けを起こしたかのようにまるで読めない意味不明な文字列だった。
二度見する間もなく信号機は遠離っていく。軽自動車を運転しながら、なんだったんだろうと考えた。だれかのいたずら?
休日。陽が沈む前、夕食にはまだ早い時間帯。車の通りはまだ少なく、スムーズに流れている。僕の運転する軽自動車も流れに乗って結構な速度を出している。バックミラーでも、もう反対車線の地名板を確認出来ない。
すると今度はケーキ屋の看板が文字化けしたような文字列になっていた。店名が読めない。ガソリンスタンドもコンビニも看板が意味不明な文字列になっていた。どこもかしこも。そして段々建物の色がドキツい原色や蛍光色のものになっていく。
そっちに気を取られていると、いつの間にか目の前の車両が真っ二つになっていた。車の右半分だけで走っている。バランスを取れるはずがないのに、水平を維持している。さらに前の車両もなんだか形がおかしい。
咄嗟にブレーキを踏みそうになったが、背後から二階建ての軽トラが迫っていて思い留まった。追突されたら……どうなる? どうなっているんだこれは?
ラジオから流れる音声は日本語でも英語でも、少なくとも僕が知っているどの言語の発音と似ても似つかぬ言葉で喋っていた。すぐさまラジオを消した。
青い夕陽が目に刺さる。
街は原因不明の変容を起こしているが、だれかがパニックになっている様子はない。だれも気付いていないのか。
バックミラーに映る自分の顔を確認する。いつもと何ら変わらない毎日鏡で確認している自分の顔のように見える。だが、それ意外の部分はどうか。自信がない。
俺は果たして俺のままなのだろうか。
俺はアクセルを踏み込み、ギアを三万二千八百六速に上げた。エンジンが唸りを上げ回転数が跳ね上がる。急激な加速によって短距離で揚力を得た空陸両用車は離陸し、星の渦巻く宇宙へ飛び立った。
きっと気のせいだ。
いつも通り、いつもと同じ光景。銀河より巨大な星間管理者が星々の位置を入れ替えている。この世界はかれらによって常に調整され続け、五分後の世界は今より住みやすくなっている。かれらに感謝しなければ。
私は外皮を脱ぎ捨て、羽を広げ、節足を伸ばした。そして今。
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