なにかを探すように

 ふと留守中の愛犬がなにをしているのかが気になってメルカリでデジタルビデオカメラを衝動買いした。ジャンク品が届くのではないかという危惧もあったが、多少使用感はあったもののちゃんと動くし想像以上に綺麗に撮れていた。

 私が家に帰ると愛犬はいつもソファの上でちょこんとおすわりしている。赤毛のトイプードルだ。今年で二歳。遊ぶのが大好きなので、もしかしたら可愛らしく一人遊びしているところが撮れるのではないかと期待している。ずっと昼寝して、たまに水を飲んだりおしっこしたりしているところしか撮れないかもしれないが。だから中古品のビデオカメラで良いと踏んだ。なにせ犬は個体差もあるが毎日十二時間前後寝る生き物だ。

 さて。

 ソファが映る位置を探さないと。愛犬が足にじゃれついてくる。はいはい、これはおもちゃじゃないよー、と言いながら本棚の中断に設置。試しに撮ってみた動画を確認してみたがソファを中心に家の中の広い範囲が撮れていた。これでいいだろう。

 愛犬の頭を撫でて、出勤。

 夜。十二時間後、帰宅。

 愛犬はいつも通りソファの上でちょこんとおすわりして、私が来るのをじっと待っている。私が靴を脱いで上着を掛けて鞄を置いて近付くにつれ、みるみる顔をほころばせ、そしてソファから飛び降りて私の足にじゃれつき始める。はいはい、ただいま。いいこにしていた?

 いつもならすぐさま散歩に行くところだが、今日はその前にビデオカメラを確認しないと。本棚に置いてあるビデオカメラを――

「あれ」

 ビデオカメラの位置が変わっている。

 本棚の中段、棚の真ん中あたりに置いていたはずなのに。左端にある。

「いたずらした? ジャンプしたら届いちゃった?」

 と足下の愛犬に訊いてみるも、愛犬は小首を傾げるばかり。

 まあ、いい。見れば分かる。

 ビデオカメラのバッテリーが切れていたので、充電ケーブルをコンセントに挿し、電源を入れる。無事起動。

 ビデオカメラを操作して、録画した動画を画面上に再生する。

 私が出勤すると、愛犬は玄関を眺めていたが、しばらくしてソファの上に移動。拗ねたような顔で丸まって寝始める。動きがないので動画の再生速度を倍速に切り替える。ずっと、ずっと愛犬は眠っている――が、突然、画面が揺れた。

 カメラが動いている。

 カメラの焦点がソファから台所に移動する。テーブルのまわりをぐるっと回る。画面の端、窓がちらっと映った。窓に白いもの――このデジタルビデオカメラだろう――を携えた黒い影が反射していた。なにかを探すように、カメラは家の中のあちこちを写し続けて――連続撮影時間の限界に達して動画は終わった。

 愛犬にちらっと目をやる。

 愛犬は私の背後を見ていた。

 デジタルビデオカメラを本棚の中段に戻して、そして今。

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