第8話 あなたの横にいたいの
「……よっし! 倒してやったぞ!!!」
A級モンスターである巨大モグラ、ディグランの討伐に成功し、マティアスは勝利の雄叫びを上げる。
「……っし、思わぬ戦闘になったとはいえ、なんとか切り抜けられたな……カレン、ケガはないか?」
「………………」
「……おい、カレン? 大丈夫か!?」
「……あっ……ゴメン、大丈夫だよ……」
モンスターの討伐に成功したにも関わらず、カレンの顔は暗いものであった。
マティアスはなんとなく彼女の心情を察し、一旦気持ちを落ち着けさせようとした。
「……疲れてるのか? それなら少し休んでいってもいいんだぞ?」
「……大丈夫。早くみんなのところに帰ろう?」
そう言葉を返したカレンは、少し無理をしたような笑顔を浮かべていた。
「……いや、やっぱり少し休んでいけ……休め」
「……分かったよ」
カレンは渋々マティアスの指示に従い、その場に膝を抱えて座りこんだ。
膝に自分の顔の下半分を埋めてしょげているカレンを見て、マティアスは何も言わずに彼女の側に腰を下ろすのであった。
「……」
しかしカレンは、マティアスから少し距離をとる。彼女は、なるべくマティアスと目を合わせないようにしているようにも見える。
「……なんだ、普段はベタベタしてくる癖に、やけにしおらしいじゃないか」
「……うるさい。女には、色々あるんだよ」
「……そうかい。俺は男だからそういうのは分からんよ」
マティアスは、それ以上何も言わない。
しばらくの間2人の間には沈黙が続いていたが、静けさに耐えられなくなったのか、カレンが先に口を開いた。
「……ゴメンね。私、面倒臭かったよね」
「心配すんな、お前が面倒臭くなかった日なんて、この17年間でほとんどねぇよ」
「…………」
「……だからさ、今更少し面倒臭いくらいでお前を嫌ったりしないよ。お前にだって色々と悩みがあるんだし、俺にそれを解決する術がない以上、偉そうなことは言わない」
「術がないって……マティアスじゃ、この胸の痛みはどうにも出来ないの?」
「……お前の痛みがなんなのかは分からないけど、俺に話して解決するようなことならとっくに話してるだろうと思ってな。リーネ達でも解決出来ないんなら、それはもうお前自身の力で解決するしかないんだと思う」
「……!」
「だから、俺は上手いことは言えないけどさ……せめて、お前が立ち直るまではずっと側にいてやろうと思ってな。……こんなことしか出来なくて、すまん」
「……そんなことないよ。……ありがとう、こんな私の側にいてくれて」
カレンはマティアスの隣に座り直し、そのまま体を預けるような姿勢をとった。
男性特有の筋肉質でゴツゴツした肉感が、カレンにとってはとても頼もしく感じた。
「……私さ、情けないんだ。マティアスの前だと、いつもみたいな動きが出来なくなって、足を引っ張ってばっかになって……マティアスにカッコいいトコを見せたいのに、その気持ちがどんどん空回って……そしてまた、こんな風に自分が情けなくなる」
今こうしている間にも、カレンの心臓の鼓動は激しくなっていた。
自分の欠点は、結局何も変わっていない。このままじゃ、いつまで経ってもマティアスと一緒に戦うことが出来ない。
私は、こんな風にマティアスに甘えるだけじゃ嫌だ。しっかりと隣に立って戦って、マティアスを守れるようになりたい。なのに、今日もまた守られた。
そのことが、カレンにとってはひたすら情けなかったのだ。
(一体いつから、こんなことになっちゃったんだろ……昔みたいに、ただの幼馴染みとしてしか見てなかった時の方が、幸せだったかも……)
「……カッコつけようなんて思わなくてもいいよ。リーダーだからって、1人で全部やろうとしなくてもいい。たとえ別々のパーティーになっても、一緒に戦う以上は仲間なんだから、互いのミスは補い合ってナンボだろ」
「……でも、私S級なんだよ? 本来ならトップランカーの1人として、みんなを守らなきゃいけない立場なのに……」
「S級だからなんだよ。お前は人間なんだから、ミスだってするだろ? 完璧な人間なんていないんだから、1人で全部背負いこむなよ」
マティアスはそう言いながら、カレンの頭に手を置いた。
彼のその優しい手つきから、もう余計なことは考えずに安心しろと、そう言葉にせずとも伝えているのがカレンには分かった。
「……分かったよ。もう、マティアスの前ではクヨクヨしない。そっちの方が、ずっと情けない姿だからね」
「ああ。そっちの方が、お前らしくて俺は好きだよ」
「……えっ? 好き!?」
「ああ、好きだよ。やっぱりお前は前向きに笑ってる方が似合ってるからな」
「………………!!!」
好きだとか、似合ってるだとか、そんな浮いた言葉を意識している相手から聞いて平常心でいられるほど、カレンの精神は大人ではなかった。
「す、すす、すすすすすすすすすきって……!!!」
カレンは煙でも吹き出しそうなほど真っ赤な顔になると、壊れた機械のような挙動をしばらく続けた後でオーバーヒートしたかのように倒れこんだ。
「おいっ!? 大丈夫か、カレンーッ!?」
99%の混乱と1%の幸せの中でカレンは意識を失い、気づいた時には病室にいた。
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