第9話 大人になろうよ
「俺、好きだぜ。お前のこと」
(ええっ!? マ、マティアス、私も……)
「お前の笑ってる顔は可愛いんだからさ、もっと笑ってくれよ」
(う、うん! 笑うよ、マティアスが可愛いって言ってくれるんなら、私一杯笑う!)
「……うん、やっぱりお前は、そうしてるのが一番可愛いよ」
(そ、そんなに可愛いなんて……えへへ)
ーーーーーーーー
「えへへへへへぇ……」
「……中々気持ち悪い顔してるよ、あんた……」
「……はっ! ここはどこ!? マティアスは!?」
楽しい楽しい夢の時間はおしまい。目が覚めたカレンは、イストの街の病院の一室にいた。
カレンは夢の中で見ていたマティアスの姿を探して周囲を見渡すが、自分の隣にいたのは死んだ目でこちらを見ているリーネだった。
「やっほ~。僕マティアスだよ~」
「わ~、マティアスちゃん可愛い~。キスしちゃってもいい~?」
「本物相手にもそんな大胆なこと言えるようになればいいのに」
「私はそんな軽い女じゃないんだよ」
「ああ、確かに重いっちゃ重いね」
女同士の下らない茶番を繰り広げた後で、リーネはカレンに今の状況の説明をする。
突然顔が真っ赤になって倒れたからと言って、マティアスがカレンを病院まで連れてきたこと。
そしてそのマティアスはギルドからの緊急任務のため、ジェシー、チコとともに既に街を離れていることを。
「……私、どのくらい寝てたの?」
「大体8時間くらい? 模範的健康優良児だね。深夜に目覚めていることを除けば」
日中に倒れてから、日付が変わった今までずっと夢の世界にうつつを抜かしていたことを知り、カレンは思わず頭を抱えてしまった。
「……そんなに寝てたなら、そりゃマティアスも行っちゃうか……」
「……一応、マティアスじゃなくて私が行こうかとも言ったんだけどね。あいつは緊急なら自分が行くって聞かなかったよ……流石、あんたが惚れる相手だね」
「……うん。マティアスなら絶対向かうだろうね」
カレンのその素直な返事を聞き、リーネは少し目を見開いて驚いた反応を示す。
「……あらら、ついに惚れてるって部分を否定しなくなったよ」
「あんた相手に否定するのは疲れるだけだと思ったからね」
「ふうん……それで、あんたは今からどうするつもりなの?」
「……どうするって……?」
質問に疑問で返したカレンに、リーネは顔を近づけて質問への答えを迫る。
「このままここで寝てるか、今から私達もマティアス達を追いかけるか。どっちにするの?」
リーネに答えを迫られたカレンの頭の中には、様々な思考が入り交じった。
まずはじめに脳内に浮き出た、マティアスを追いかけたいという自分の気持ちを塗り潰す。
そして、マティアスからかけられた言葉や、今の自分の状態、そしてギルドからの緊急任務……今手元にある情報を自分なりに整理してから、カレンはようやく口を開く。
「……ギルドからの召集人数は?」
「A級以上を3人。要するに、今の面子のままでも充分らしいけど」
ギルドからの緊急任務による召集人数は、常に“必要最大限”の人数に設定されている。
これだけの人数を揃えれば間違いなく失敗することはないという人数を呼び寄せており、逆に言えばこれ以上は余剰な人員になるということでもある。
「……なら、ここはマティアス達に任せよう。行くとしても、リーネだけでいい」
「……へぇ、意外な回答。マティアスになんか言われた?」
「……うん。取り敢えず、1人で何でもかんでも背負いこむのはやめることにした。今の私がすべきことは、一回自分の気持ちを整理することだと思う」
リーネの顔をまっすぐ見てそう言うカレンの顔からは、確固たる意志が感じられる。
彼女は自分が求めることのために、今何をすべきかを必死に探し求めているのだ。
「……了解。それじゃ、私も付き合うよ。手助けくらいはできるだろうし」
今までとは少し違う顔を見せるカレンに成長を感じたのか、リーネは満足したように微笑んだ。
「……ありがと、リーネ。やっぱあんたは私の親友だよ」
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