第6話 色ボケ全開
「カレン、何でお前がここにいるんだ? お前はクイーンアントと戦っていたんじゃ……」
マティアスとカレンにとっては、お互いに全く想定してない不意の遭遇だった。
まずマティアスは、ここにいるはずのないカレンがなぜ自分の前にいるのかを問い詰める。
「う、うん。それはもう終わったんだ。もう依頼は完了したから、マティアスに会いにいこうと思ってさ」
「……いや、何でお前、俺がここにいるのを知ってるんだよ?」
「いや、だって見えたし。マティアスが私達のこと見てるの」
「……は? いや、分かったのか?」
「うん」
(……マジかよ。俺も目はかなり良い方だけど、あの距離から正確に顔を見ることなんて不可能だぞ? 俺があの距離からカレン達が戦ってるって分かったのも、前情報と人数から推測したってだけで、正確に誰が誰かとかは分からなかったのに……)
マティアスは若干カレンの目の良さに引いているが、それに気づかぬカレンはひょっこりとマティアスの前に出てきた。
「ね、ねえ、マティアス。ちょっといい?」
「……ん、なんだ?」
カレンは恥ずかしそうに顔を赤らめている。
服にモンスターの返り血さえついていなければ、とても可愛らしい姿に見えるのだが。
「……えっとさ、その……」
「褒めてほしいのか?」
「う、うん。ほら、今日の私、頑張ってA級を2体も倒したからさ……なんでもいいから、ご褒美が欲しいなー、なんてさ……」
顔を真っ赤にして、手で覆う仕草を見せるカレンだが、それに対するマティアスの表情は“無”に近い呆れたものだった。
(……うん、いつものね。こいつの思考はホント単純に読めるわ。滅茶苦茶強い癖に、どうしてこう精神が子供なのか……)
別に、マティアスはカレンのことが嫌いとか鬱陶しいとか思っているわけではない。
S級の肩書きに相応しく、強さだけでなく自分を頼ってくる人々への優しさや思いやりも兼ね備えている。
そう、彼女は基本的にはマティアスさえ絡まなければ、良識を持った皆から尊敬されるS級冒険者なのだ。
マティアスも、彼女のちゃんとした一面を知っているからこそ、彼女のことは幼馴染みという関係抜きにしても大切な人間として付き合っている。
そして自分が関わる時だけは、どうしてここまで子供っぽくなってしまうのかがとにかく不可解でもあった。
(……幼馴染み相手だから、普段隠している子供っぽさが隠しきれなくなるのかねぇ……まあ、俺が褒めてやるだけでこいつのやる気が出るんなら、いくらでも褒めてやるけどさ……)
マティアスが頭を撫でると、カレンの顔はだらしなく緩む。その緩みっぷりは、とても彼女を慕う人間には見せられないようなデレデレしたものだった。
(……まるで犬でも撫でてるような気分になるな)
撫でられることで分かりやすくテンションを上げるその姿は、どこかの忠犬を彷彿とさせる。
そのうち尻尾でも振ってキャンキャン鳴き出しそうだ。
「えへへ……」
(……気持ちよくなってもらうのは結構だけどさ、いつまでこうしていれば……ん?)
何かを感じ取ったマティアスは、右手をカレンの頭から剣の柄へと移して戦闘態勢をとった。
「……マティアス?」
「……構えろ。どうやら敵は1体だけじゃなかったみたいだ」
「……え? それって……」
「……来るぞ! 避けろ!!!」
次の瞬間、マティアス達の立っていた地面が崩落し、地中からは再び巨体が飛び出してきた。
「……カレン、大丈夫か!?」
「……う、うん。……マティアス、ありがとう」
まだボケが抜けていなかったカレンは、反応が遅れて地面の崩落に巻き込まれそうになったが、すんでのところでマティアスによって助けられたのだ。
「礼は後でいいからさ、ちゃんとしてくれよ……今度は、不意討ちなんて出来なさそうだからさ」
「……う、うん……」
(マティアスが、助けてくれた……どうしよう、敵の前なのに、鼓動が治まらないよ……)
2人の前にはもう一度、巨大モグラ、ディグランが立ち塞がる。
既に体勢を立て直してディグランに向かうマティアスに対し、カレンは激しくなる心臓の鼓動を抑えられずにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます