第291話 国交
*
「これで文句はないだろう?」
スルトはコウガの希望通り、サイズを合わせた。
そして改めて同じ高さで視線を交わす。
やはり、惹かれる。
「ああ、面倒かけた。それでいきなり本題に入ってもいいか?」
すまなそうな顔など一面も出さずにコウガが言う。
よほど図太い神経をしているのか、それともほかに懸念していることでもあるのか。
今のスルトが予想をたてるには情報が少なすぎた。
「構わねぇ。コウガとやらは何やら急ぎの用でもあるようだしな。」
少しだけかまをかけてみた。
何となく早くことを終わらせたいような雰囲気を感じた、、、気がする。
「別に急ぎの用はないな。まぁ、早くに終わらせるにこしたことはないけど。」
あっさりとスルトの予想は外れた。
まったく当てにならない館である。
*
コウガの話をまとめると国交を結びたい、その一点だった。
なんでもコウガは世界中からあぶれ者たちを集めて国を興したそうだ。
なんとも酔狂な男だ、コウガから国を興した成り立ちを聞いた時にはそう思ったものだ。
なぜ自ら厄介ごとを抱え込もうとするの理解できなかったというのもあるがなによりも驚いたのがコウガが集めた者たちは性別も異なれば種族も異なる、という点である。
そしてその”ヤマト”という国では他種族で協力し合って生活をしているという。
今の世界情勢では考えられないような話だった。
「面白れぇな。他種族が共に暮らすか。偏見とかねぇのか?」
単純な疑問だった。
各種族は生活水準も違えば基礎知識、下手すれば言語さえ違う。
そんな状況でトラブルが起きないはずがない。
「そうだな、俺の所にいる奴らは悪く言えば同胞から蔑まれ、見捨てられた奴らなんだよ。それぞれに事情はあるけどな。だからって訳じゃないが同族だからって信用できるわけじゃないことを身をもって知ってるんだろうな。」
コウガはどこか遠い目をしながら話す。
その様子からおそらくはコウガ自身も同族である人からひどい仕打ちでも受けたことがあるのだろう。
目の前の男が虐げられているところなど想像できないが人族には人族のルールのようなものがあるのだろうと納得する。
「それでも強いやつは弱いやつから搾取するのが自然の摂理だ。おいたするやつは出てこないのか?」
「ゼロってわけじゃない。けど明らかに高慢な態度を取ったり、他者を見下すようなことをする奴はいないな。」
コウガはスルトの質問に対し一つ一つ真摯に答えてくれている。
つまり嘘は言っていない。
だからこそスルトは余計に他種族がトラブルなく生活できている事実に違和感を覚える。
単純な疑問だ。
長く生きてきたゆえの疑問。
世界の移り変わりを見てきたがゆえの疑問。
「なぜ?」
スルトの純粋かつ、単純な疑問だ。
コウガはその質問を予想していたかのように苦笑いを浮かべていた。
「虐げられる痛みを知っているからだよ。」
表情は変わらず苦笑いのままだったがその声は深い悲しみに満ちていた。
きっとこの男にも色々あったのだろう。
それでも世界を恨むのではなく、虐げられている者を救おうとしている。
バカだ。
だがそんなバカがスルトは好きだった。
「うっし。俺たち巨人族はお前たちとの国交を正式に結ぶ。これは決定だ。」
スルトがコウガを信用すると決めた瞬間だ。
こうして互いに唯一無二の存在と出会ったのであった。
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