第286話 対面

「ようやく見つけたぞ。」

 

ため息まじりにコウガはこちらに背を向けて座っている男に声をかけた。

ここは地上から数千メートルはあるであろうそ山の頂。

男は頂の先、せり出した岩の上に座ってした。

彼のはるか下には雲河が広がっている。


「もう少し早く来ると思ってたんだけどなぁ。それよりもそんなとこにいないでこっちに来なよ。用があるんでしょ?」


男は振り向かない。


コウガはあれだけ用意周到に逃げておきながらよく言う、そう思ったが口には出さない。

たとえこれまでの道のりで多くの罠にかけられすでに心身ともにボロボロで額に青筋が浮かんでいたとしても口には出さないと言ったらださないのだ!

目の前の男を痛めつけ、身動きのできない状態にしてコウガの脳裏に永遠に消えることのない悪夢となった、あのGの大群に晒したいと思っていたとしても!

口にはしない!

手も出さん!


耐えろ、俺の自制心。

コウガさんは大人なのだ!


「あはは、そんなに全身で怒りオーラ出さないでってば。ちょっとしたゲームだよ。」


だが男はコウガが纏っていた怒りのオーラを敏感に感じ取ったらしい。

相変わらず背は向けたままだ。

振り返る気も、こちらに歩み寄ってくるつもりもないようだ。

そしてそれこそが男の答えであった。


「ゲーム?じゃあお前があの時にあの村で助かったミーシャをこの時代に連れてきたのもゲームだって言うのか?」


コウガはいきなり本題に入る。

ミーシャを宿に置いてきてまで目の前の男を探し回った理由がこれだ。

ミーシャにすべてを打ち明け、一晩ぐっすりと眠ってからコウガは違和感に気が付いた。

それはミーシャと出会った時から感じていた違和感だったのだが、目の前のも音大が解決したことによってその違和感がはっきりとした形を持って現れたのだ。


コウガが村を滅ぼしたのは数百年前。

コウガ自身は干渉魔法で老化することはない。

だからこそ数百年たった今でもこうして普通に生きているわけなのだが、ミーシャはそうじゃない。

ミーシャは普通の女の子だ。

あの村に生きていた何のスキルも持たず、たまたま生き残っただけ。

そんな少女が数百年後も生きているはずがない。

冷静に考えればわかるばずの事だった。


「やっぱりそのことかぁ。そうだよ。僕があの子を仮死状態にして数百年間保存しておいたんだ。」


やはり男は背を向けたまま答える。

誤魔化そうとするとばかり思っていたコウガは言葉に詰まる。


「なぜそんなことをしたのかって聞きたそうな感じだね。」


ここで男はようやく立ち上がり、コウガの方へと向き直る。

2人の視線が初めて交わる。

コウガは一瞬、相手が誰なのかわからなかった。

それほどに目の前の男はコウガが知っている男とは雰囲気が違った。

コウガが知っている、いや、知っていたと思っていた男はここまで憎悪に染まった雰囲気を持つでも、闇に堕ちた目をした男でもなかった。


「お前、、、。お前は誰だ?」


答えなど聞かなくてもわかっていたはずなのに聞いてしまった。

それほどまでに目の前の男の変貌が信じられなかった。


「あはは、ほんとにおもしろいね、君は。君だって知っているだろ?僕だよ。ハリストスさ。」



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