第284話 兄バカここに極まり
*
「よし、じゃあちょっと用事済ませてくるからここでおとなしく待ってろよ。」
ミーシャとの絆を確認した日から数日、コウガ達はとある町の宿屋でお世話になっていた。
最初は数日の滞在予定だったがすでにこの町に来てから一週間がたっている。
足りなくなった品の補充が主な用事だったが資金が乏しくなってきたこともあり、簡単な仕事を請け負うことにしたからだ。
まだギルドのような仕事をあっせんしてくれるような組織ができていない為、コウガが従事している仕事は宿屋の主人から斡旋されたものだ。
仕事内容は狩りと町周辺に現れる魔獣の討伐。
コウガにとってはどちらも大したことない仕事だった。
この周辺には強い魔物がおらず、そのおかげか鹿や猪などの獲物が豊富だ。
コウガにとってはいい稼ぎ口であった。
「うぅん。い、いっってらっしゃい~。」
そう言ってミーシャは布団にくるまったまま、眠そうに言う。
まだ日が昇ったばかりの時間だ。
いつもならミーシャを一人にしておくことができないので一緒に仕事に行くが今日は別行動だ。
今日はミーシャを連れていくわけにはいかない。
*
「あら、おはよう。早いのね、これから狩り?」
コウガが階段を降りるとすでに宿の女将は起きていて朝食の準備をしていた。
「おはようございます。いや、今日はちょっとした私用で。ミーシャは留守番なんです。仕事に支障のない範囲でいいのでミーシャのこと、気にかけてもらってもいいですか?」
挨拶を返し、ミーシャのことをお願いする。
少し前のコウガならばこのちょっとした会話にすら苦戦していたのに今では女将だけでなく町の人とも普通に話せている。
これもすべてはミーシャのおかげだ。
「そうなのかい?ならミーシャちゃんのことは任せてしっかりやんな。とはいってもやってやれることなんてないかもね。あの子はほんとにいい子だから。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
コウガは女将に軽く会釈をして宿屋を後にする。
とはいえ心配なことに変わりはない。
もちろん結界魔法に防御魔法、強化魔法、緊急転移その他もろもろ。
ありとあらゆる魔法で守ってはある。
これだけの魔法を突破できるものなどまずいないだろうがそれでも不安はぬぐえない。
それに女将の言うようにミーシャはいい子すぎるくらいにいい子だ。
女将の手伝いをしているところや町の人達と楽しそうに話しているところをよく見かける。
たった一週間でミーシャはこの町のアイドル的な存在になってしまっていた。
そんな可愛くていい子であるミーシャをどうにかしようとする輩などで沸いて出てくるに違いない。
そんな害虫などがミーシャに近づこうなど100万年早い。
現にすでに数人がきつーいお仕置きをコウガから受けていたのであった。
「まぁ、うちのミーシャは可愛いから当然だよな。」
そんな独り言をつぶやき、町を後にする。
完全な兄バカである。
そしてそれをコウガが気づく時はおそらく永遠に来ない。。
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