第283話 待つ者
*
その日は久しぶり心から休まった、そう感じることができた。
それはすべてを打ち明け、自分の進むべき道を見つけたからか。
こんな自分を信じて必要としてくれる人がいるという事実のおかげか。
生涯背負っていくと決めた十字架が少しだけ軽くなった気がした。
「ありがとな、ミーシャ。」
まだ明けることのない夜の闇。
だが確かにコウガには光が見えた。
ミーシャという名の希望の星が。
コウガは隣で幸せそうに眠るミーシャの頭をなでる。
そしてコウガも安らぎへと身を委ねた。
きっと明日はもうすぐ訪れるだろう。
*
それはコウガが眠りに落ちたのと同じ頃。
いくつもの屍の上にソレはいた。
自分のモノではない血を全身から滴らせ、原形のとどめていない屍たちの上に平然と座っているソレは何かに気が付いたように視線を上へと向ける。
その冷酷な光が宿った瞳は何を映したのか、それはきっと彼にしかわからない。
だが、彼の口は三日月形に歪んでいた。
「ふーん、なるほどね。ちょっと予想とは違うけどこれはこれでおもしろいからいっか。」
ソレは歪んだ三日月型の口から発せられた声だった。
その声は残念がっているようにも面白がっているともとれるようなものだ。
どちらにせよ、この残酷な光景にはふさわしくない声色であることは間違いない。
血肉が積みあがり、吐き気を催すほどの血と死の匂いが充満しているこの地では。
何かを思案するような様子を見せたソレは一切のためらいを見せることなく後ろに向かって地面に刺さっていた小太刀を投げた。
あまりにも一瞬の出来事だったために仮に近くに誰かが居たとしても何が起きたかわからなかっただろう。
そしてソレが投げた小太刀の先には体を小太刀に貫かれ絶命している男がいた。
「ダメダメー、奇襲するならもっとうまくやらないと。殺気も気配も駄々洩れだよ?ってもう聞こえてないか、つまんないなぁ。」
ソレは、通り道にあった屍を塵へと変えながらすで小太刀に貫かれ絶命している男の元へと向かう。
そして小太刀を引き抜く。
死んで間もないためか、その傷口からは大量の血が噴き出した。
その血を全身に浴びながらもソレはまだ足りない、とでも言うように手に持った小太刀で男の体を肉片へと変えていく。
「あーあ、つまらない、ほんっとにつまらない世界だよ。あと何年、何十年、何百年?それとも何千年?ちょっとは期待したんだけどなぁ。」
ふいにソレは動きを止めた。
そして目の前の肉片にも小太刀にも興味を無くしたかのように空を見上げたまま動かない。
その瞳には先ほどまでの冷徹な光はない。
あるのはどこまで行ってもなにもない。
真っ暗で寂しい色を映す小さな瞳だけだった。
「僕は、、、、、、。僕はいつまで待てばいいの?」
ソレの呟きか夜風と共に消えた。
誰に聞こえるでもなく。
誰に届くでもなく。
夜風が木々を凪ぐ時にはすでに夜の闇に溶けていた。
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