第281話 真実 1

大事な話がある。

そう言ってコウガが切り出したのはミーシャの家族についてだ。

ミーシャを引き取り、育て、そして別れ離れになってしまった家族ではない。

ミーシャの生みの親について。


負の感情を向けられ、闇の中に沈み、自身をコントロールできなかった。

その結果、コウガが奪ってしまた未来。

そして生涯、消えるとのない十字架について、だ。


「ミーシャ、これ。」


そういってコウガはミーシャに持っていた石を見せる。

あの村から持ってきた唯一の物。

高温で焼かれた為、ガラス状にまでなってしまったあの村の装飾品と思われるもの。

コウガはあの日の戒めとして肌身離さず持ち歩いていた。

もちろん誰にも見せることはせずに。


「あれ?ミーシャの。ありがとう!拾ってくれたんだ。」


どうやらミーシャは自分のものだと思っているらしい。

そして落としたものを拾ってもらったのだと。

だがそうじゃない。

”ありがとう”なんて言わないでくれ。

真実は残酷なんだ。


「違うんだ。ミーシャ、自分の荷物見てみな。」


ミーシャはコウガに言われた通り自分の荷物を漁る。

そして「あっ!」と声を上げた。


そう、この石はミーシャのものではない。

だから当然、ミーシャの荷物の中には石がある。


「あれれ、おんなじものみたい。お揃いだね!コウガお兄ちゃんこれどうしたの?」


何も知らない少女はどこまでも無邪気に聞いてくる。

お揃いなのがうれしいのか無邪気な顔には笑顔すら浮かんでいる。

その顔がこれからどんな風になるのかは想像できない。


悲しみにくれ、涙でその顔を濡らすのだろうか。

それとも、怒りと憎悪に歪むのだろうか。


コウガはできれば後者であってほしいと願った。

ずっと誰かに糾弾されたかった。

罪を裁かれ、償いたかった。

ミーシャにならどんなことをされても構わない。

それが償いになると言うのであれば、それが救いになるのであれば、コウガは喜んでこの身を捧げよう。



「これは俺にとっての戒めなんだ。俺が昔、焼き滅ぼしてしまった村の。これは村だけじゃない、人も含めて唯一その場に残っていたのものなんだ。」


ミーシャは何も言わない。

ただミーシャは年齢の割に聡い子だ。

おそらくこの後に続く言葉も察しているのだろう。

それゆえの無言。

ミーシャはコウガがその後の言葉を紡ぐのを待っているのだ。


「ミーシャの本当の家族を俺が、殺したんだ。ミーシャの両親だけじゃない、たくさんの人を殺した。怒りに任せて多くの人の未来を奪った。そのくせいまだにその罪を償う事も出来ずに、自分で死ぬ勇気もなくのうのうと生きてきたんだ。」


コウガの告白。

平静を装ってはいるが声が震えている。

だが、それでもミーシャはまだ何も言わない。


「ミーシャがどうして生き残ったのかはわからない。ミーシャは俺に両親を、居場所を奪われたんだ。俺を裁く権利はミーシャにある。好きなようにしてくれ。」


これ以上なにかを言うつもりはない。

なにを言ったところでコウガの罪は消えないし、弁解も言い訳もしたくなかった。

とてもじゃないがミーシャの顔は見られない。

唇をきつく噛み、地面を見つめることしかできない。


一秒が、一分がこんなにも長く感じられたのは生まれて初めてかもしれない。

早く終わらせたい。

そう思うと同時にその瞬間が永遠に来なければいいとも思っていた。

ミーシャに断罪されるのが怖かった。

ミーシャの口から憎悪や侮蔑の言葉を聞くことが怖かった。


なによりも、ミーシャを失うことが怖かった。


断罪の時はまだ、来ない、、、、、。









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