第280話 家族

「なぁ、ミーシャ。」


まだ雑草が取り除かれただけの街道を歩きながらコウガは棒っきれを振り回しながら楽しそうに歩くミーシャに声をかけた。

実はハリストスからミーシャについて聞いたことが1つだけある。

だが、そのことをミーシャに伝えていいものか迷っていた。

なのでそれとなく話題を振ってみようとしてみたのである。


実はこのハリストスから聞いた話と言うのはかなり重要な内容だったりする。

それこそコウガが悩んでいたお風呂問題など足元に及ばないほど。


「あはは、お風呂問題より気にするべきことあるでしょー。」


そんな声がどこからか聞こえてきそうだ。


「なぁに?コウガお兄ちゃん、もしかしてご飯⁉」


振り向いて目を輝かせるミーシャ。


ご飯って、君。

ついさっきお昼ご飯食べたばっかだよね?

この年頃の女の子は何よりもまず食欲なのか?

ミーシャくらいの女の子を育てた経験などあるはずもないコウガは戸惑う。

だがきっとミーシャが例外なのだろうという結論を導く。

そして頑としてぽっちゃりにはさせないと固く決意したのであった。


そんな決意とは全く関係ないが、問題は深刻だ。

気を取り直してコウガは迷いながらもミーシャに答える。


「ご飯はまだまだ先。それよりさ、ミーシャはなんのために旅をしてるのかわかってるよな?」



いきなり真面目な話をされたためか、ご飯がまだまださきだという事を知らされたショックか、ミーシャはコウガの方を振り返ったまま固まった。

おそらく、後者だな。

内心で呆れと共にそんなことを思う。


「ご飯、、、。うん、わかってるよ。ミーシャの家族を探すんだよね。」


おい、ご飯って口に出ちゃってるから。

どうやらこうがの予想は外れていなかったらしい。

やっぱりご飯の方がでかいか。

だがまぁいい。

ちゃんとこの旅の目的を理解していることが分かっただけでも大きな収穫だ。

問題はどうやってハリストスから聞いた話の内容を伝えるか、だが。


「それで間違ってないよ。でさ、何度も聞いてるかもしんないけど家族について覚えてること話してくれないか?」


少し困ったような、考ええるような仕草をしたあとにミーシャが口を開いた。


「んーっとね、お母さんもお父さんも優しくて怖かったの。でも2人もミーシャの本当のお母さんとお父さんじゃなくて、だけどミーシャは家族だって言ってたの。」


初めて聞いた話だ。

父と母が優しく怖い人だという事は聞いていたが本当の両親ではないことは初耳だった。

今まで隠していたのか忘れていたのかはわからないがこの話はコウガにとってかなりの収穫だ。

それにハリストスから聞いた話もより真実味を帯びた。


「ミーシャはその家族の事、好きか?それとも本当の両親に会いたいって思うのか?」


聞きたいような、聞きたくないような気持を持ちながらもコウガは意を決して問いかける。

ミーシャはコウガにとって大切な存在で、何よりも守りたいと思った。

だからこそミーシャには真実を知り、幸せになれる道を選んでほしい。

その為ならコウガはこの命すらかけられる覚悟だった。


「んー。好き?」


なぜか疑問形で首をかしげながら答えるミーシャ。


うちの子かわえええぇ。


思わず抱きしめそうになるがここは理性を総動員して耐える。


「なんで疑問形なんだよ。好きか嫌いかなんてミーシャの気持ちだろ。それがわかんないのか?」


「だってミーシャ、コウガお兄ちゃんの方が好きだもん。コウガお兄ちゃんがいてくれればミーシャ他の家族はいらないよ。」


予想外の答えだった。

驚くコウガ。

だが冷静になって考えてみれば驚くようなことではないのかもしれない。


ミーシャは年齢のわりに大人びている。

そして人の機微にとても聡いことを思い出した。


もしかしたらコウガの様子から何かを察したのかもしれない。

そしてミーシャなりに結論を出し、コウガのことを気づかっているのかもしれない。


情けない。


コウガが真っ先に思ったことがそれっだった。

こんな小さな女の子に気を使われるなんて。


そしてコウガは覚悟を決めた。

ミーシャに真実を話す覚悟を。

そしてミーシャにこの命の采配を預ける覚悟を決めた。



「ミーシャ、大事な話があるんだ。すこし休憩にしよう。」












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