第278話 悠久の時
*
「さてと、じゃあの僕はそろそろ行こうかな。」
なんの前ぶりもなくハリストスが言う。
てっきりこのままミーシャとの旅に付いてくると思っていただけにコウガはこの発言に驚かざるを得なっかった。
それに何よりまだハリストスから真意を何一つ聞いていない。
「いきなり来ていきなり帰るなんてせわしないやつだな。」
「まぁねー。ほら、なんたって僕はフリーだから。あまり長く一つのところにはいられないんだよ。」
冗談っぽく言ってはいるが一瞬だけ見せた悲し気な表情をコウガは見逃さなかった。
この世界は決して僕らを受け入れはしない。
ふいに彼が言った言葉が脳裏をよぎる。
ハリストスは一見するとこの世界を楽しんでいるように見えるが心の奥底では誰よりもこの世界に絶望し、この世界に住む人々を呪っているのかもしれない
そして彼のふざけた雰囲気はそのことを隠すための鎧なのかもしれない。
コウガはふと、そんなことを思った。
「お前が居ようがどうでもいいけどどっかに消える前に本当の目的を言ってけよ。ただ俺と仲良しこよしするために来たわけじゃないんだろ?」
「うーん、ほんとに君とちょっと話してみたかっただけなんだけどなあ。まぁ強いて目的を上げるなら君を見定めに来たってところかな。」
「見定める?」
「うん。僕、というより僕の加護には対になる存在がいるんだ。僕はその存在をずっと待っている。それだけだよ。」
そう言った彼の瞳はコウガが何も言えなくなるほどに悲しい色をしていた。
ハリストスは言った。
この世界には10人の転生者が送られることになっていると。
そして彼が最初の1人で、コウガが2人目。
その間だけでも数百年以上が経っている。
終わりがあることとは言えそのゴールはあまりにも遠すぎる。
そんな悠久の時を一人で生きていく。
ミーシャに出逢わなければきっとコウガは生きる屍そのものであっただろう。
たった200年ほどでこうなのだからハリストスの苦悩などコウガには理解できるはずもかけるべき言葉も見つけられない。
「俺じゃなくて悪かったな。」
コウガは気づいていた。
彼の言う存在が自分でないことなど。
なにもしてやれない。
200年経っても無力な自分が嫌になる。
「1/9だよ?そもそも最初からそんなに期待してなかったしね。久々にチャーハンを食べられたし、僕としては大満足だよ。」
一瞬、驚いた表情をしたハリストスだったがすぐにいつもにのふざけた表情に戻った。
まさか、そんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。
彼の意表を付けたようで今までやられっぱなしだったコウガは少しだけすっきりした。
「また食べたくなったら来いよ。チャーハンくらいしか作れないけどな。」
ハリストスの待ち望む人間ではないコウガにできることはこれくらいしかない。
彼の話相手になる。
「あっれー、いいのかなぁ。そんな簡単に言っちゃって。毎日来るかもよ?」
「来たきゃ来いよ。」
冗談ととらえたハリストスがそんなことを言ってくるがコウガの返事はあっさりとしたものだった。
さすがに即答で許可されるとは思っていなかったのだろう。
ハリストスは固まってしまった。
「あはは、やっぱり君は面白いね。うん、また来るよ。100年後、くらいにね。」
その笑いはハリストスが初めて見せた彼がもつ、本当の姿だったかもしれない。
100年後、というあたりが彼なりのジョークなのだろう。
「ああ、そのくらいがちょうどいいい。俺は長生きだからな。」
そしてそんなジョークにコウガもニヤリ、そんな効果音が付きそうな笑みで返す。
彼らにとって100年は決して長い時ではない。
互いに不老に近い体を持ち、人外の力を行使する。
100年などあっという間に過ぎる。
「じゃあねー。また100年後に。」
そう言って悠久の時を生きる友はコウガの前から姿を消した。
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