第277話 友人
*
「はいはい、そーだよ。俺は日本人だ。爺さんにこの世界に送られてかれこれ200年近く生きてる。だけど俺は別に誰にも迷惑なんてかけちゃいないし、今はミーシャの家族を探すのに忙しいんだよ。」
コウガはこれ以上シラを切るのは難しいと諦めて素直に白状した。
しかし慣れ合うつもりもないことも忘れずに強調しておく。
「あれ、ずいぶん簡単に折れたね。まぁその方が楽でいいんだけどさ。200年ってことは君が2番目かなぁ。」
チャーハンを食べすぎて膨れ上がったお腹をさすりながらハリストスと名乗った転生者はまた訳の分からないことをつぶやいた。
ちなみにミーシャは昼食後のお昼寝タイムに突入している。
食べた後にすぐ寝るのは良くないと何度言っても食べ終わると寝てしまう。
初めのうちは耐えているのだが眠気には勝てないらしい。
なんだかんだでまだまだ子供だ。
そんなことにどことない安心感を覚える。
それにこいつとの話はあまり聞かれたくないものだし、今は寝ていてくれてありがたいとすら思う。
「2番目?ってことは他にもまだ転生者が居んのか?」
「まだこの世界にいるのは僕たちだけだろうけどね。そうだなぁ、あと8人は来るんじゃないかな?」
妙に具体的な人数を聞かされた。
なぜこの男はそんなことを知っているのか。
コウガの警戒心は否応なしに上がる。
「だからそんなに警戒しなくても大丈夫だってばぁ。僕がなんでそんなことを知っているのか気になるんでしょ?そんなの簡単だよ。だって僕が最後で最初だったんだから。」
「どういう意味だ?」
最後で最初?
禅問答みたいなもんはきらいなんだよ。
「そのままの意味だよ。僕はこの世界に転生されることになった10人の最後で、同時に一番最初の時代に転生したんだよ。君も君が言う爺さんって人から色々聞いたんじゃないの?」
なるほど。
確かに何番目、とか言われたような気がする。
だがあの時のコウガは転生というだけでテンションMax、ろくに話を聞いてなどいなかった。
「どうしてお前が最初だってわかるんだよ?」
「そんなの簡単さ。君が言いう爺さん?つまり神様何だけど、彼に直接聞いたんだよ。僕が転生した時代にはまだ地上に神様たちが居たからね。」
神様に直接聞いた?
それもこの地上で?
考えれば考えるほど嘘くさい。
だが仮に嘘だろうが本当だろうがどちらでもいい。
俺には順番がそう大切だとは思えないことが一つ、もう一つは正直こいつに興味がないからだ。
敵対するなら別だが現状、こいつに敵意はない。
ならこいつが嘘を言おうが俺には関係ない。
「それが本当ならずいぶん長生きなんだな。少なくとも俺よりは数百歳は年上ってことだろ。」
「まぁねー。こう見えてかなりのおじいちゃんだからいたわってくれないとぽっくり逝っちゃうよ?」
「今にも逝くような奴はチャーハン3杯も食わねぇよ。」
そう、何を隠そう。
こいつチャーハンを3杯も食いやがった。
わざと余らせておにぎりにしようと思っていたのに。
おにぎりにしておけばミーシャがチャーハンを食べたいと言い出してもすぐに対応できると考えてのことだった。
「はは、まぁそれもそうだねぇ。おいしかったからついたくさん食べちゃったよ。こんなに食べたのはこの世界に来てから10回目くらいかな?」
「10回って結構食ってんじゃねぇか。くそ、なんか損した気分だ。おい、まだ米もってんならよこせ。あと他にもうまそうなもんあれば出せ。」
「うわっ、いきなり追いはぎ?ちょっ、やめてよー。」
「いいから出せ。」
「追いはぎが出たぞー。逃げろー。怖いなぁ。」
そんなこと一ミリも思っていないだろう。
棒読みだ。
もちろんコウガも本気で身ぐるみをはがそうなんて思っていない。
はたから見ても兄弟がじゃれ合っているようにしか見えないだろう。
いつの間にかコウガは初めに感じていた警戒も敵意も不信感も抱いていなかった。
それどころか懐かしい気持ちにさえなっていた。
同郷だからだろうか。
コウガはこの世界に来て初めてこの世界に生きているという事を実感した気がした。
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