第276話 慧眼

「転生?何のことか俺にはさっぱりだ。俺と同じ世界から来たって何あたり前のこと言ってんだ?俺たちは現に今ここに居るじねーか。」


チャーハンを口に運びながらコウガはあたかも関係ない、というスタンスを貫くことにした。

動揺などしていないし、興味など微塵もない。

そう見えるように努める。

だが内心では鈍器で思いっきり殴られたかのように揺れに揺れまくっていた。

なにせ自分と同じ転生者。

まさかそんな人物と出会う事など想像しているはずがなかった。


「あれ?僕の思い過ごし?うーん、そんなわけないと思うんだけどなぁ。あっ、おかわりね。」


口調こそは自身なさげだがその目は確信に満ちていた。

それでいてお代わりを要求する図々しさ。

一体こいつは何者なのか?

コウガの興味を引いたのは間違いない。


「俺たちは別に知り合いって訳じゃないんだ、少しくらい遠慮したらどうなんだ?」


「そこは同郷のよしみってやつで頼むよ。それにこの米は僕があげたやつだからね、持ちつ持たれつ、ってやつさ。」


何が同郷のよしみだ、コウガはまだ転生者だということを肯定した覚えはない。

だが確かに米をもらってしまっている手前強く拒否することもできない。

米がなかったのは完全にコウガの落ち度である。

もしここで米がなく、チャーハンを作れないようなことが合ったら確実にミーシャの機嫌を損ねることになっていた。

まぁ、ミーシャが幸せそうな笑顔でチャーハンを食べてくれているならいいか。

隣で小さな口を一生懸命動かしながらチャーハンを食べているミーシャを見てそう思った。

それにしても食べるのに真剣過ぎて俺たち、というか目の前の誘拐犯の存在を完璧に忘れている。

恐怖より食欲か。

少しミーシャの将来が心配になった。




「で、結局お前は何の用で俺たちの前に現れたんだ?」


チャーハンがなくなり使った道具を片付けながらコウガがハリストスに訪ねる。

ミーシャはすぐそこの川まで食器を洗いに行ってもらっている。

今ならば答えてもらえる、そんな気がした。


「んー、そうだなぁ。けどそれを聞くってことは君は転生者ってことでいいのかな?」


「お前は前にミーシャを誘拐したんだ。疑問に思って当然だろ。それにさっきから人のことを転生者って言うけどなんか根拠はあんのかよ?」


あくまでシラを切る。

こいつの目的がわからない以上下手に素性を晒すのは自殺行為だ。

それもこいつほどの強者、下手をすれば死ぬ。


「説明するのは難しいけど何となくわかるんだよ、スキルがいろいろと見せてくれたしね。あとは、強いて言うなら君の力、かな。」


スキルが見せた?

一体何をスキルが見せるって言うんだ?

それにこいつもあの神からなんかしらの力を受け取っていることは間違いなさそうだ。

こいつも転生者であることは認めざるをえまい。

だがこうも何人も力を授けて転生させて大丈夫なのか?

それに俺の力だって?

あの追跡で俺の力などわかるはずない。

はったりか?

くそ、謎が深まるばかりだ。


「わからないって顔してるね。けど見えたんだ。それに君、普通の人間の寿命以上生きているでしょ?そんなのチートスキルをもらった転生者くらいにしかできないよ。うまく隠せていると思うけど僕はダマせない。」







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