第271話 同郷の者
*
「あいつらをどうしたのさ?僕よりは弱いとはそこそこ強いやつらだったと思うんだけど。」
敵が仲間を失ったことで見せた動揺はほんの一瞬だった。
すぐに状況を理解し、今はこっちの動きを探っている。
やっぱりこいつは只者じゃなさそうだ。
対人戦は初めてだが一瞬も気が抜けない。
コウガは再び敵の認識を改めより一層神経を集中させた。
「俺より弱かっただけだろ。」
「それもそうだね。君、名前は?」
「コウガ。鳴神光雅。」
こっちの世界に来てから初めてフルネームを名乗った。
別に下の名前だけでよかったのだろうけどなんとなくフルネームを名乗るのがこの場では最も適しているように思えた。
「なるかみこうが、、、、?そうか、君が。」
コウガの名前を聞いた男はなぜか仲間が消えてしまった時よりも動揺していた。
そして何かに納得したようにうなずいている。
コウガには何がなんだかまったくわからない。
完全に置いてけぼりだ。
「俺の事知ってるのか?つかそういうお前の名前は?」
「イエヤストクガワ。」
「は?」
こいつ今なんて言った?
イエヤストクガワ?
偶然、ってことはなさそうだよな。
こいつは何者なんだ。
イエヤスを知っているってことはこいつも転生者なのか?
それともただの偶然か?
「僕は君と同じ。君と同じ時代から来たのかは知らないけど同じ世界から来たことは確かだよ。僕は与えられた能力で君の名前を知っていただけ。」
「そんなにべらべらしゃべっていいのか?」
聞いてもいないのにあっさりと本当のことを言いやがった。
もともと聞くつもりではいたがこう言われると調子が狂う。
というか結局こいつは敵、ってことでいいんだよな?
「君がコウガ君だって言うなら隠す必要はないしね。それにこの子も君の知り合いだって言いうなら危害は加えられない、無事に返すよ。」
どうやらその言葉は本当らしい。
自称イエヤスはミーシャの縄をほどきコウガの元まで手を引いて歩いてきた。
そしてなんのためらいもなくミーシャの手を離すと再び元の位置に戻りコウガと向き合う。
余りの出来事に茫然と立ち尽くすしかできないコウガ。
ふいに足に小さな圧迫感を感じ下を見るとミーシャが泣きそうな表情でしがみついていた。
どうやら怖く泣きそうになりながらも必死に我慢していたらしい。
「ミーシャ、もう大丈夫だ。」
コウガはそう言ってミーシャの視線に合わせてしゃがむ。
ミーシャの頭に伸ばしかけた手が空中で止まる。
迷ったが空中で止まった手を頭ではなくミーシャの背中に回す。
そして優しくミーシャを抱きしめた。
*
「じゃあ僕はこれで。」
ミーシャがコウガに抱きしめられながら号泣している様子を見ていた自称イエヤスが突然そんなことを言う。
どうやら本当に敵対する気はないらしい。
だがここで帰られては困る。
こっちには聞きたいことがたくさんある。
「待てよ、まだ何一つ教えてもらってない。お前は一体何者なんだ?本当の名前は?俺のなにを知ってる?目的はなんだ?ミーシャを狙った理由は?なぜここで引く?」
「そんなにいっぱい答えられないよ。それにコウガ君とはまた会える。遠くない未来にね、僕らはそういう運命なんだ。」
そんなにいっぱい答えられないと言っておきながら何一つとして質問に答えていない。
それに運命だなんだと言い出す輩はたいてい信用できない。
ここ捕まえてでも聞き出すべきか?
空間魔法で転移の準備を始めた自称イエヤスをみながらそんなことを思った。
それにたとえ空間魔法を使われたとしてもまた追跡すればいい。
楽ではないが現にここまで追い詰めた、十分にたどれるはずだ。
「最後に一つだけ教えておいてあげる。”世界は決して僕らを受け入れない。”じゃあまたね。」
その言葉を最後に自称イエヤスは空間の狭間へと消えた。
すぐに後を追おうとしたコウガだったがどうやっても干渉することができなかった。
それどころか自称イエヤスが居たという痕跡も含め、なんの痕跡も残っていない。
これでは干渉のしようがない。
完全に追う方法が途絶えてしまった。
ただ一つ、彼が最後に放った言葉、
”世界は決して僕らを受け入れない”
その言葉だけがいつまでも残っていた。
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