第269話 初めてのフラグ回収
*
「入るぞ。」
二階に上がったコウガは一室しかない部屋に今回はノックもせずに入る。
こんな奴ら相手に礼節を欠こうがどうでもいいだろう。
「なっ、貴様どこから。」
部屋に入るとそこはこんなスラム街にはふさわしくない豪華な一室になっていた。
高そうな家具にふかふかそうなベッド。
価値は分からないが大きい絵画が壁の一面をお占領していた。
これが目の前の男の趣味だとしたらこいつは限りなくセンスが悪い。
「普通に玄関から入って階段を上がってここまで来た。俺からの要求は分かってんだろ?拒否権はないからさっさとしろよな、うん。」
「馬鹿な!一階には
なるほど、あいつの名前はゴードンと、完全に名前負けだな。
つかあんなザコ共に信頼置きすぎだろ。
ここまで来るのに隠密魔法なんて必要ないね。
「そうだと思うなら見てくれば?俺はあんたに用はないんだよね、探してる人を返してくれればそれでいい。」
「ふっかなりの手練れのようだな。あいつの言った通りか。」
コウガの態度を見て今の話が事実であることを悟った男は椅子に座り直し余裕の態度を見せる。
最初に入ったときの慌てぶりなどすでに見る影もない。
優雅な動作で巻き煙草に火を付けるとコウガと向かい合い意味ありげな笑顔を向ける。
「あんたの言うあいつってのは空間魔法の使い手のことか?」
「そうだ。彼は優秀な人材でね、君の尾行に気が付いていた。」
コウガはそう言われてもなんとも思わなかった。
別にコウガは追跡を隠そうとしていたわけではないのでバレていようがいまいが関係ない。
現にこうして敵の本拠地まで追い詰めたではないか。
あとはミーシャを連れて家に帰ればすべて終わりだ。
「それがどうしたって顔をしているな。だがよく考えてみてくれたまえ、君は残されたわずかな痕跡を頼りにここまで来た。すごいことだ、私も認めよう。だが肝心の彼女はどこにいる?」
「そんなのこの部屋のどこかにいるんだろ。」
口ではそう言いながらもコウガの胸では不安が広がりつつあった。
見落としていた、一つの可能性。
いや、そんなことない、あるはずがない。
「強がりはよしたまえ。君はもうその答えを知っている。そうだ、彼女はここにはいない。」
コウガが見落としていた可能性、空間に留まること。
おそらく敵は転移魔法でこの町まで来た。
そしてそのあとは普通の移動手段でここまで来たのであろう。
そして空間魔法で異空間を作り出しその中に身を潜め魔法の痕跡が消えるであろう時間を見計らって転移魔法を使った。
つまりここで完全に手がかりが途絶えた。
一階のごろつき集団とこの男はただの足止め。
この男の態度が変わったのもコウガの話が真実だと思ったこととは別に十分な時間んが経過したことで安心したからだろう。
自分の慢心をこんなところで突き付けられるとは。
まだ世界は、神は俺を許さないのか。
「くそっ!」
「ひぃぃ!」
怒りに任せて側に置いてあった置物を思い切り蹴飛ばす。
飛んだ先は男のすぐ横だ。
わずかに頬が切れたらしいが気にする必要はないだろう。
あと少しずれていたら首がなくなっていたと考えれば。
「ぜってぇ見つけてみせる。」
コウガはそう呟くと腰を抜かしてへたり込んでいる男を無視してその部屋を後にした。
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