第268話 ごろつき集団

「空間魔法で移動したのはどうやらここまでか。魔力が尽きたのか目的地に着いたのか。まぁいいか、うん。」


家に残された空間魔法の痕跡を頼りに飛ぶこと3回、コウガはようやく敵とミーシャの気配をスキル越しではなく直接つかむことができた。

最初のうちこそ森の中などに転移していた敵だが今回はどこかの町の裏路地のようなところだ。

おそらくこの町が敵の本拠地なのだろう。

今までは空間魔法が使われたであろう場所に残るわずかな痕跡に干渉することで敵の気配を感知していた。

それがようやく直接感知できるまでの距離に来た。

ただ森の中と違い人の気配をそこら中に感じる。

とは言えここまでわずかな気配を頼りに進んできたコウガだ、多くの気配もネット上に紛れ組む広告程度にしか感じられない。

煩わしいとは感じるがそれだけだ。

検索にはなんの影響はない。

つまり詰めが近い、コウガはそう感じずにはいられなかった。


「王手だぜ。」


将棋などまったくやったことがないコウガだが何となくこの言葉がぴったり

のように思えた。

実際には王手の2か3手手前なのだが。

そしてこういう世界ではこういう発言がフラグになることもコウガは知らない。


「ここか。ちっ、気配が増えてるな、味方と落ち合ったのか?」


コウガが気配を頼りに町の中を進んでいると一軒の建物にたどり着いた。

町の中心部から離れているせいか人通りは寂しく、わずかに通りを歩く人々の服はすたれ、皆一様に目つきが鋭い。

おそらくはスラム街という場所なのであろう。

この時代にはまだそんな言葉など存在していないのかもしれないがガラの悪いやつらの巣窟であることは間違いないだろう。

そしてその問題の巣窟だが追ってきた相手とは違う気配がいくつかある。

しかも気配から察するに一般人、というわけではなさそうだ。


「ま、関係ないか。」


トントン。


礼儀正しく扉をノックするコウガ。

返事はない。

中で人が立ち上がる音がした。

そしてわずかに漏れ聞こえた女の子らしき声。

間違いない、ここだ。

コウガは確信を込めてさっきよりも強めにノックをする。


「すいませーん、さっさと出てきてもらってもいいっすか?いるのわかってるんで。」


ようやく扉が開かれた。

そして出てきたのは例に漏れないスキンヘッドのいかついおじさん。

酒のシミができた薄汚いタンクトップを着ている。


「ああ?ここはガキが来るような場所じゃねぇぞ。ゴラァ。」


「ちょっと人探し。おっさん邪魔だからそこどけよ、中が見えねぇ。」


見掛け倒しのゴラァおじさんにがっかりしたコウガはすでにいろいろとどうでもよくなってしまった。

ゴラァおじさんを見た瞬間にステータスチェックをしたのだが一般人に毛が生えた程度、コウガの敵ではない。

さっさとミーシャを連れて帰ろう。


「んだとこのガキがぁ!大人をなめんなよゴラァ!」


はい、テンプレ発言来ました。

もう完全にこのおじさんモブ確定。


「うるせぇ。」


一撃。

正面から殴りかかってきたゴラァおじさんが腕を振り下ろす前にがら空きの腹に一発。

殴られた衝撃に耐えられなかったゴラァおじさんはそのまま背後の壁まで吹っ飛ばされ無様に壁にのめり込む。

コウガがゴラァおじさんにぶちのめされるのを期待していたであろうお仲間さん達は面白いほどの大口を開けてゴラァおじさんの軌跡を眺めていた。


「これで探しやすくなったな、うん。」


まるでなにごともなかったかのように敷居をまたぎ中へ入っていくコウガ。

そこでようやく我に返ったお仲間さんたちがそれぞれ武器を手に取りながらコウガを囲む。

その数は約10数名。

みんなテンプレを守ったごろつきばかりでコウガはなんとなく呆れてしまった。

果たして個性とは、、、、。


「めんどくせぇ、けどなんとなくお前らはぶちのめしてもいい気がしてきた、うん。俺は二階にいくからお好きな時にでもどーぞ。」


それだけを言うとあとはお前たち次第だ、とでも言うようにコウガは奥に備え付けられた階段に向かって歩みを進める。

そんなコウガの態度を目の前で見せられたごろつき集団は怒り心頭だ。

額に青筋が浮いている。


「死ねや!」


そんな誰かの一言を合図にごろつき集団は一斉にコウガめがけとびかかっていった。


その後の彼らの結末など語るに値しないだろうことはみんなが知っている。















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