第267話 追跡開始

「ただいま。」


コウガの声はこの家を出た時よりもはるかに重く、その低温はこの小さな家によく響く。

なんの因果か、ミーシャを見て踏み出そうとした一歩をミーシャによって踏み出す前に押しとどめられた。

実際はミーシャとあの焼けた石がどうかかわっているのかはわからないがそれでも進もうとした先に道がないことだけは分かった。


「ミーシャ?」


ミーシャからの返事がない。

まだ寝ているのか?

それにしては寝息どころか気配すらも感じられない。


コウガの頭に今見てきた光景がよぎる。

倒れた馬車、生物だけが消えた光景。

まさかミーシャたちを狙った犯人が?

そうなればあの石のことは永遠にわからないままだ。


「そんなことさせるか。」


思わず口から声が出た。

何が何でもミーシャを探し出してあの石のことを聞く。

そしてできることなら償いを。

自身の罪を裁かれ、その罪に見合うだけの償いをしたい。

俺自身の独りよがりなものでなく他人から与えられる裁きが欲しい。

何よりも俺は許しが欲しい。

誰かと共に生きていいと、笑顔を向ける相手を得ていいと。



「くそ、これだけ探しても何の気配もないのかよ。」


何がなんでもミーシャを見つけると決心したコウガはスキルを最大限利用し、ミーシャの痕跡を探していた。

しかし匂いにしろ音にしろ気配にろ完全にコウガの家で途絶えてしまっているのだ。

いくら五感を強化したところで何も見つけることはできなかった。

ミーシャはコウガの家で忽然と姿を消した、そう結論づけるしかなかった。

それでもあきらめきれずにコウガはおそらく最後にミーシャがいたであろう寝室をなんとはなしに見渡す。


「なんだ?これは、、、、、、。空間が歪んでるのか?」


そしてコウガはある異変に気が付いた。

それは部屋のごく一部、それも部屋の隅のほんとうに小さな一部分。

そこが蜃気楼のように揺れていたのだった。

注意深く見なければ見落としてしまいそうなそれはコウガが見ている間にもどんどんと消えていく。

この空間の歪みが敵によるものだとすればおそらく敵は空間魔法を使ってミーシャを連れ去ったのだろう。

それならば痕跡がここで途絶えているのも納得できる。

問題は空間魔法でどこかに逃げてしまった敵にどうだ。


「ちっ、魔法が使われたのは30分前か。けどそんな遠くまでは飛んでないな。さすがに空間魔法からじゃそこから先までの足取りは分かんないか。」


コウガはお得意のスキル、干渉インフェレンスを使い空間の歪みとわずかに残っている魔法の痕跡に干渉する。

そして使われた空間魔法の範囲と方向、中継地点の割り出しをした。

その結果、そう遠くないところに転移したことがわかった。

しかしこの家からの干渉ではそれ以上先のことはわからない。


「この方角、距離は大体7キロか。待ってろよ、ミーシャ。」


コウガはもう一度方角と距離を確認し、敵が飛んだであろう場所に出現地点を定める。

少しでも方角と距離にブレが生じてしまえば思ってもみないところに出てしまう可能性があるだけに方角と距離の見定めは大事だ。

極限まで意識を集中させ魔力を操作する。

初めはうまくできなかった魔力操作も今では呼吸をするのと同じくらい簡単にできる。

魔力が体に回り、最大限まで高まったタイミングを見計らってコウガは飛んだ。


慎重なまでに慎重。

これが使コウガが行うである。

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